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仕事・人生

高齢者の爪と心を輝かせる福祉ネイリスト ボランティア女性が知った喜びとは

公開日:  /  更新日:

著者:坂本 俊夫

福祉ネイルのボランティア団体代表の松本知美さん(左)【写真提供:松本知美】
福祉ネイルのボランティア団体代表の松本知美さん(左)【写真提供:松本知美】

 高齢化社会と言われて久しい中、総務省統計局(2022年9月15日現在推計)によると、2022年には65歳以上の高齢者は前年比で6万人増加し、過去最多の3627万人に。総人口に占める割合も過去最高の29.1%となりました。さまざまな分野で活躍する女性たちにスポットを当て、その人生を紐解く連載「私のビハインドストーリー」。今回登場していただくのは、京都市で高齢者通所施設などを訪問し、無償でネイルケアを行っているボランティア団体「ガンチー」の代表を務める松本知美さんです。子どもがいなくて時間に余裕があるため、軽い気持ちで取ったという福祉ネイリストの資格。前編は、そこから始まったボランティア生活の今についてお話を伺いました。

 ◇ ◇ ◇

「笑顔の機会に区別をつけたくない」と無償でスタート

 高齢者からだけでなく、介護する人からも喜ばれ、コロナ禍の中でも引っ張りだことなっているボランティア団体「ガンチー」。その代表を務めるのは、サッカーの審判員という異色の経歴の持ち主、松本知美さんです。

 松本さんは、高校時代にサッカーの4級、3級、大学1年で2級審判員を取得。高校生の頃から審判を務め、卒業後は京都府サッカー協会で企画運営の仕事をしながら、土日は審判として活躍しました。Jリーグの練習試合や全国大会、国体などの審判も担当しましたが、結婚を機に京都府警の非常勤職員として総務課の仕事に。

 現在は京都市内の大学に事務補佐員として勤務し、2020年に中学時代からの友人の岩田亜希子さん(副代表)と福祉ネイルをボランティアで行う「ガンチー」を立ち上げました。どのような経緯で始めたのでしょうか。

「私は子どもがいなくて、副代表は独身。ちょうど『何か役に立つことがしたいね』という話から、2人で『何か資格を取っておいても悪くない』という話になりました。そこで、まだあまり認知されていない、高齢者や障害者にネイルサービスを行う福祉ネイリストの資格が目につき、軽い気持ちで取ったのです。受講した帰りに2人でお酒を飲んだりできるし(笑)。ですから、この資格で何かをしていこうなどとは考えませんでした。

 ところが、高齢者にボランティアで施術する機会があり、高齢者の方はもちろん、施設の方も大変喜んでくださいました。その喜びをひしひしと感じ、こんなに喜んでもらえるのに、福祉ネイルのことがまだあまり知られていないのは残念だなあと。そんな思いが『これを広めていけば、高齢者介護の問題解決の一助となるのでは』という勝手な使命感になり、2人でスタートしたのです。『ガンチー』という名前は、副代表の『岩田』の『岩』、私の『知美』の『知』から取りました」

福祉ネイルの施術を行う松本さん【写真提供:松本知美】
福祉ネイルの施術を行う松本さん【写真提供:松本知美】

 有料ではなく、ボランティアにした理由は何だったのでしょうか?

「費用を自分で負担してネイルができる環境の高齢者は、ごく一部の方。ネイルに1000円なり5000円なりを払える費用があれば何食分にもなると、体験を控えてしまう方が大半という現実が分かりました。払える方のみを対象にするのは簡単ですが、介護格差の助長につながってしまう。笑顔の機会に区別をつけたくないと思いました。

 しかもこれは他人事ではなく、将来は誰もが高齢者になるわけで、“自分事”でもあります。また、施術を受けられる方だけでなく、介護をするご家族やスタッフの方に対しても負担の軽減や癒やしの効果があると分かり、どこかから支援を集めて、自分たちは無償で地域や社会に還元するお手伝いをしようと考えました」