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仕事・人生

高齢者の爪と心を輝かせる福祉ネイリスト ボランティア女性が知った喜びとは

公開日:  /  更新日:

著者:坂本 俊夫

介護する家族や施設の人からも喜ばれた

「ガンチー」の発足は2020年春。ちょうど新型コロナウイルス感染症が広がり始めた頃でした。まだワクチンもなく、施設などは用心のため外部との接触を避ける状況に。やがてワクチンができ、コロナ禍が長引く中、社会の雰囲気が変わっていくにつれて変化が起きます。

 感染対策をした上でレクリエーションを……と施設側の考えもシフトしていき、松本さんたちは、地元の社会福祉協議会の担当者経由で施設にチラシを配ってもらうなどして告知していきました。特にメディアの力は大きかったそうで、松本さんたちの活動が新聞などで紹介され、依頼が増えていったのです。

「多い時で月6回くらい、一か所に2、3人のスタッフで訪問しています。一番多いのはデイサービスを行っている施設です。

ネイルで笑顔になる参加者【写真提供:松本知美】
ネイルで笑顔になる参加者【写真提供:松本知美】

 コロナ禍以前はお化粧のボランティアさんもいらっしゃいましたが、爪は鏡よりもご自身で見やすいので、私たちが帰った後も機嫌が良くて『爪を見てニコニコしています』といった声が。認知症の方で常に怒りっぽくて、その介護に手を焼いていらっしゃった方からは『ネイルしてからすごく機嫌が良くなって、介護の負担が減りました』といった喜びの声が入っています。

 また、お母様を毎月病院に連れていかれる娘さんから、『高齢者がネイルをしているのが珍しく、看護師さんたちに爪を見せてって囲まれ、母が人気者の気分になれるので自分もうれしい』といったお話も聞きます。ご本人だけでなく、介護されるご家族や施設の方も喜んでくださっているのです。

 私自身、高齢者の方が施術後にニコニコされている様子を見たり、次に行った時に『待っていたのよ』と言ってもらったりすることがあり、本当にうれしいです」

 もっとも、介護が必要な高齢者や障害者は女性だけではありません。男性に対しても何かケアをしているのでしょうか。

「大々的にはお伝えしてはいないのですが、実は男性にも意外と利用していただいています。男性はハンドトリートメントがメイン。高齢者は爪も老化していくので、薄くなったり割れてしまったりするのです。ネイルトリートメントという透明のものを塗って、会話をしながらきれいにしています」

地元の警察署や消防署とも連携 ネイルケアを通じて啓発活動

「ガンチー」がスタートして約2年。その間、活動の幅が広がっていきました。地元の警察署や消防署と連携した啓発活動にも取り組んでいるそうです。

「横断歩道での交通事故が多い状況を受け、京都府警下京署が高齢者を対象とした交通安全講座を開催しました。『手を挙げて横断歩道を渡りましょう』という啓発目的で、私たちも協力。高齢者の皆さんにネイルケアを行い、きれいな爪の手を挙げて渡っていただこうというものでした。

 また、高齢者施設に加え、障害者介護施設や若年性認知症の方とそのご家族などの交流の場で施術したり、元気な高齢者同士でハンド&ネイルケアを行うイベントを実施したり、世界ダウン症の日関連イベントに参加したりと、現在の活動は多岐にわたっています」

障害者介護施設でも実施。利用者は笑顔に【写真提供:松本知美】
障害者介護施設でも実施。利用者は笑顔に【写真提供:松本知美】

 松本さんたちのこうした活動は地域に認められ、京都市民の健康づくりのために継続的に活動している個人や団体を表彰する「京都いきいきアワード2022」で大賞を受賞。「交通安全」や「サギ注意」、「119。火の用心」といったオリジナルのネイルシールを活用した啓発活動も行いました。さらに、「防犯啓発活動にも献身的に取り組み、中京区民の防災意識向上に大きく貢献している」と、中京消防署長から感謝状を贈られるなどしています。

「ガンチー」の活動にやりがいを感じている松本さん。後編では、ボランティアを始めて人生がどう変わったのか、そして今後の展開などについて語っていただきましょう。

◇松本知美(まつもと・ともみ)
1984年生まれ、京都市出身。大学卒業後、一般社団法人京都府サッカー協会職員などを経て結婚。学生時代に2級審判員の資格を取得し、Jリーグの練習試合や全国大会、国体などで審判を務めた。2019年に「福祉ネイリスト」の資格を取得。2020年、友人と福祉ネイルのボランティア団体「ガンチー」を立ち上げ、現在は京都市内の大学の職員として平日の3日間勤務しつつ、ボランティア活動に励んでいる。

(坂本 俊夫)