どうぶつ
猫専門病院の需要が高いドイツ 生後3か月の子ねことの初受診で驚いたこと
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動物病院の受付で初めての診察予約
明くる日、意を決して病院へ着くと、ドイツ語で「僕の猫たちの診察の予約を取りたいのですが!」と尋ねました。すると「猫の受付は2階に行ってね。こっちは犬やほかの動物たちのセクションだから」との返答が。後で調べたところ、こちらの病院には猫専門とそれ以外のセクションがあると知りました。ドイツで飼われている動物でもっとも多いのは猫で、それに伴って「猫専門」の病院の需要は高いそうです。
仕切り直して病院2階の受付へ。再び診察の予約について尋ねると、ドイツ語で「あなたの猫たちの名前を教えてくれる?」と言われました。日本の動物病院と同じように、今後の診察予約やカルテなどに記される呼称はすべて猫たちの名前になります。
こうして、診察の予約を完了させ一安心。これならば僕のひどいドイツ語でも乗り切れるだろうと高をくくった数日後、僕は診察日に冷や汗ものの体験をしたのです。
主治医の勢いに気圧されるも一安心 愛猫たちは「パスポート」を取得
診察当日、ココロとサツキをそれぞれのキャリーケースに入れて病院へ向かいました。ココロは生後3か月にしてすでに3キロ前後(ちょっぴり太め)、一方のサツキは2キロ弱(標準体型)と体重が違いますが、片手に1つずつキャリーケースを持つとやっぱりずっしりと重く感じます。
病院へ到着し、受付で「ココロとサツキを連れてきました~」と言うと、「先生に呼ばれるまで、そこのロビーのソファで座って待っていてね」とのこと。ここまでは順調です。
いくらかの時間が過ぎると、僕の視界の先に、白衣を着た妙齢の女性が仁王立ちしているではありませんか。彼女は威勢良く「そこのあなたたち(僕とココロとサツキのことです)、こっちに来なさい!」と、僕たちを診察室へ誘いました。そして、いきなりドイツ語の速射砲発射!
僕「せ、先生、わたくし、少々ドイツ語がつたなくて……」
先生「あら、そうなの? でも心配ないわよ。じゃあ私、英語で話すから。あなた、英語ならわかるでしょ?」
英語ならば日常会話程度は理解できるので、「は、はい」と返したところ、そこからドイツ語よりも倍速の速射砲発射!
先生「この子たちの名前は?」
僕「ココロとサツキです。ココロというのは日本語で『心臓』の意味で、サツキは同じく日本語で『五月』という……」
先生「意味なんて聞いてないのよ。この子たちの名前がわかればいいんだから。それでね、あなた、日本に帰る予定あるの? だったら、それはいつ?」
なんとなく、こんなことを言っているように解釈しました。そのうえで、先生はこんなことも言っていました。
先生「だから、イエローとブルー、どっちにするのよ? ああもう、わからないならブルーにするわね! いつになるかわからないけど、あなた、日本へ帰る可能性もあるわけでしょ。だったらブルーね。それで決まり!」
先生の言う「イエロー」と「ブルー」は猫用のパスポートのことで、「イエロー」はドイツで有効な「ワクチンパスポート」、「ブルー」は世界で通用する「ペットパスポート」とのこと。僕自身、いつ日本へ正式帰国するかはわかりませんから、先生の判断は正しかったことになります。
そして、ココロとサツキは先生にプチッとワクチンを接種させられて本日はお役御免。その間、2匹はなぜか先生にどこまでも従順で、おとなしく指示に従っていました。先生の威厳は確実に猫たちにも伝わっていたのでしょう。ただ、ワクチンは合計で2回接種しなければならず、次のワクチン接種は後日ということになりました。このとき「ココロの去勢とサツキの避妊手術もお願いしたいのですが?」と尋ねたところ、光の速さで先生がこう返しました。
先生「去勢と避妊は生後6か月を過ぎなきゃダメよ。その間に発情したらどうするかって? 我慢するしかないわね。交尾したらどうするかって? 天の思し召しに従うしかないわね。いずれにしても、あと3か月くらい待って、その後で予約してちょうだい!」(と、おっしゃったような気がする)
その後は質問の余地すらなく、僕は先生からもらったココロとサツキのブルーパスポートを携えて、“嵐吹き荒れる”動物病院から退散したのでした。
このときの僕は、先生が言っていたことの2割も理解できなかったかもしれない……。こうして気圧されてしまった僕は、のちにこの先生がとっても心強い存在になることをまだ知りません。
(島崎 英純)
島崎 英純(しまざき・ひでずみ)
1970年生まれ。2001年7月から2006年7月までサッカー専門誌「週刊サッカーダイジェスト」(日本スポーツ企画出版社刊)編集部に勤務し、Jリーグ「浦和レッドダイヤモンズ」を5年間担当。2006年8月にフリーライターとして独立。2018年3月からはドイツに拠点を移してヨーロッパのサッカーシーンを中心に取材活動を展開。子どもの頃は家庭で動物とふれあう環境がなかったが、三十路を越えた時期に突如1匹の猫と出会って大の動物好きに。ちなみに犬も大好きで、ドイツの公共交通機関やカフェ、レストランで犬とともに行動する方々の姿を見て感銘を受け、犬との共生も夢見ている。