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仕事・人生

「地域おこし協力隊」 具体的な仕事内容は? 50代で移住した元記者が始めた新たな取り組み

公開日:  /  更新日:

著者:芳賀 宏

農園でお手伝いをする芳賀さん【写真提供:芳賀宏】
農園でお手伝いをする芳賀さん【写真提供:芳賀宏】

 長野県立科町で「地域おこし協力隊」として活動している芳賀宏さん。千葉県で生まれ育ち、就職後は東京で記者生活を28年、その後はプロ野球を統括する日本野球機構(NPB)の広報担当として2年と、慌ただしい生活を送ってきました。「いつかは田舎で暮らしたい」。そんな憧れから、2021年に長野県立科町へ移住しました。連載第2回は、芳賀さんが現在、産業振興担当として活動している「地域おこし協力隊」の実態についてお伝えします。

 ◇ ◇ ◇

活動の目的は「自ら学ぶこと」、そして「学んだことを伝えること」

「地域おこし協力隊って何をするの?」

 着任が決まってから多くの友人、知人に聞かれました。

 総務省のウェブサイトには「地域ブランドや地場産品の開発・販売・PR等の地域おこし支援や、農林水産業への従事、住民支援(中略)~地域への定住・定着を図る取組」とあります。もちろん、自治体によって活動はさまざま。長野県立科町は観光と農業が基幹産業なので、「地域おこし協力隊」の先輩のなかには観光地での仕事に就いている方もいます。

 現在、観光や農業などに関する「産業振興担当」は私のほか、リンゴ農家になるべく準備中の同僚が1人。また、都市圏などからの移住者受け入れを重要施策と位置付けており、ほかに3人が「移住促進担当」として活動しています。

 協力隊の業務は行政側から指示を受けるところもあるようですが、立科町は隊員の裁量に任されている部分も多く、自由度は高いといえるでしょう。実際に、私はひとつに決めずさまざまなことに関わっています。

 一昨年の春に着任し、この町を知るためすぐに取り組んだのは、リンゴ農家とワインブドウ栽培のお手伝いでした。春にはリンゴ、少し余裕ができる夏はワインブドウ、秋には再びリンゴとブドウの収穫……というサイクルです。

 この活動には目的が2つありました。「自ら学ぶこと」、そして「学んだことを伝えること」です。

 長く新聞記者をしていたことは前回お伝えしました。やってきたことに誇りは持っていますし、世の中に対し、意義ある仕事だと考えています。ただ、事件記者が犯人を逮捕することはないし、プロ野球担当記者が150キロの剛速球を投げることはできません。現役のときから、心の奥底に「自分から何かを生み出すことはできない」というモヤモヤした思いがありました。

 一次産業、とりわけ農業は人が生きるために必要な作物を生み出す仕事です。駆け出しでも畑に出ればプレーヤーになれる。そんな憧れも「地域おこし協力隊」への後押しになったのかもしれません。

 立科町への移住を希望される方のなかには、「リンゴ農家になりたい」「ワインブドウに携わりたい」という方が少なからずいらっしゃいます。“移住あるある”ですが、いざ来てみたら「話が違う」というのはよく聞く話。そのためには実情を把握して、正確に伝えるべきではないかと思ったのです。

あえてネガティブな実情も 農作業での経験を資料に

 実際に携わってみると、季節ごとの作業はもちろん「必要な道具、機具の優先順位は?」「収穫期に人を雇うには?」「JA(農業共同組合)の出荷規格はどうなっている?」という具体的なノウハウが分かってきます。農業を始めるにあたり、案外こうした情報は誰に聞いたらいいかわからないものです。そこで、知り得たことを「リンゴ新規就農をご検討の方へ」という資料として、あえてネガティブな実情も含めてまとめ、町の移住相談施設で誰でも閲覧できるように配置しています。

 また農作業の経験値は、同じ協力隊の移住促進担当との連携にもいかされています。移住を検討して来町される方に向けて同僚が作成したプログラムに、リンゴ畑やブドウ畑を見学する内容が組み込まれています。町では日常の光景も、都会の人にとっての非日常は興味が湧く対象になります。畑をご覧になった方には喜んでいただけているようです。

 50歳を過ぎた自分に、新たに学ばせてもらっている町へお返しできることはないだろうか? そう考えたときに気づいたのが、立科町の「発信力」をアップすることでした。

 町の主産業が観光と農業なら、来ていただいて買っていただかなければいけません。しかし、どんなに素晴らしい景色があっても、おいしいリンゴが採れても、知ってもらわなければ届かないのです。

 町長はじめ町役場には、日頃からPRの重要性を説いています。いまやオールドメディアと揶揄される新聞やテレビですが、その影響力は決して小さくありません。報じてもらうアプローチとしてのプレスリリースも、ただ出せばいいのではなく「目につく見出しの付け方」や「効果的なタイミング」が必要です。何千通ものリリースをもとに記事を書き、またその逆で発出してきた経験を担当職員に伝えています。