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「月がキレイですよ」 終末期患者を見守って気が付いた「自分らしい最期」の重要性
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「これほど自然な状態で亡くなることができるのか」 Aさんの最期を見守って
当時は、がん患者であっても死亡間際に、心臓マッサージやバッグバルブマスクといった他動的に空気を肺に送り込む器機を使った延命措置をとるのが一般的だったという。
それが“普通”の最期であった時代に、Aさんには一切そういった延命治療を施すことはなかった。Aさんが臨終に差し掛かった際、櫻井氏が部屋に入っていくと、Aさんのことをご家族が取り囲み、自然に亡くなっていこうとする様を全員で見守っていたという。
「その様子は“厳か”と言ったら語弊があるかもしれませんが、希望の如何を問わず医療機器に囲まれて亡くなってしまう方も多い中、ご家族が間近におられてお別れの言葉を伝えていらっしゃる様子を見て、病院でありながらこれほど自然な状態で亡くなることができるのかと、強く心に残りました」
「患者の知る権利」が尊重されていなかった時代に、自らの強い考えを持ち、貫いたAさんの最期は、看護師になったばかりだった櫻井氏の記憶に深く刻まれた。そして、それから数年が経ち、臨床ではなく教師として後進を育てることに専念しはじめた頃、終末期の遺族ケアについて関心を持ち、よくディスカッションを開いている同僚と出会った。その時、思い出されたのがAさんだったという。
「終末期のケアについて知るうちに、患者さんやご家族にもっと良いケアができたんじゃないかと思いました。それで、あの時はできなかった終末期と向かい合う人達に対する良いケアとは何かを追究していきたいと思うようになったんです」
Aさんのことを思い出したのは20代も終盤の頃。その後、大学院に進み、研究をし始めたのは30歳を過ぎた頃だったという。現在は、東京医療保健大学で教壇に立つ傍ら、患者とその家族からの聞き取り調査などを続ける櫻井氏。遺族や患者と対峙し、感じてきたことは櫻井准教授から学生達へと受け継がれている。
参考
厚生労働省 『第42回がん対策推進協議会資料』
https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10904750-Kenkoukyoku-Gantaisakukenkouzoushinka/0000037672.pdf
国立研究開発法人 国立がん研究センター・がん対策情報センター・がん登録センター・院内がん登録分析室 『がん診療連携拠点病院等 院内がん登録 2016年全国集計報告書』
https://ganjoho.jp/data/reg_stat/statistics/brochure/2016_report.pdf
東京医療保健大学 医療保健学部 看護学科 准教授。看護学博士/看護師/保健師。2010年千葉大学大学院看護学研究科修了。同大学院看護学研究科(特任講師)を経て2013年より現職。研究テーマは、「エンドオブライフにかかわる意思決定に関する研究」「終末期の緩和を目的とした療養についての患者と家族の決断を支える看護援助に関する研究」。
(Hint-Pot編集部・白石 あゆみ)