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「立科町」とはどんなところ? 「地域おこし協力隊」の元記者が住んで知った魅力とは

公開日:  /  更新日:

著者:芳賀 宏

やはり自然の景観は圧巻 都会にいては感じられない美しさ

バイカー憧れの「ビーナスライン」から臨む白樺湖【写真提供:芳賀宏】
バイカー憧れの「ビーナスライン」から臨む白樺湖【写真提供:芳賀宏】

 大ざっぱに夏と冬の季節感をお伝えしましたが、やはり特筆すべきは景観の美しさに尽きるでしょう。空気の澄んだ冬から春にかけては里の高台からも冠雪した北アルプスを臨め、山に登れば中央アルプスや八ヶ岳連峰の山並みが目に飛び込んできます。

 オートバイ好きの聖地といわれる「ビーナスライン」は、霧ヶ峰(茅野市、諏訪市)や美ヶ原(上田市、長和町)といった有名な景勝地への入り口です。関越自動車道を使えば東京から約3時間で立科町に到着。シーズンには多くのライダーが、素晴らしい景色とワインディングロードを目指して集結します。

 実は私もバイク乗りです。暑い日には、思い立ってから30分ほど走って涼しい高原に逃げ込むこともしばしば。仕事前に混雑する時間を避けてひとっ走り……なんてことを楽しめるのも、移り住んだ最大のメリットかもしれません。里の気温が30度でも、走り出せばあっという間に7~8度は気温が下がります。ひんやりとした木立の中を抜けていく爽快感を味わえるのは、ライダーの特権です。

 ただし、残念ながら12月中旬から3月までバイクは封印。寒さは我慢できても、凍結防止のために路面にまかれる塩化カルシウムでバイクがさびる心配があるからです。ときどき、寒い時期でも山を目指していく他県ナンバーのライダーを見かけますが、「帰ったらちゃんと洗車しているかな」なんて気を揉んでしまいます。

 もちろん冬も格別。町内には2つのスキー場があり、こちらも30分あれば白銀の世界が待っています。本格派からビギナーまで楽しめる「2in1スキー場」は、運が良ければ雪がなくなるゴールデンウィーク頃まで滑走可能。「白樺高原スキー場」は、ファミリー向けだけでなくクロスカントリーコースもあってスキーの醍醐味が満喫できます。

 しかも、町民であればリフト代が平日無料。土日でも午後は無料です。昨年、約30年ぶりにスキーに挑戦し、翌日は体がガタガタになりましたが、昔を思い出す楽しい時間になりました。夏も冬も、生活エリアから「わずか30分で別世界!」。これこそ立科町の恩恵でしょう。

就農を通して知ったリンゴの「摘花」 花を愛でる期間の短さも貴重

 歳のせいか、仕事に忙殺されていた若い頃には興味のなかった花などにも関心が向くようになりました。もちろん、自然に囲まれた場所にいるからなおさらです。たとえば、以前ならわざわざ買っていたムスカリの花が田んぼのあぜ道に咲いていたり、古いお寺の境内にカタクリが自生していたりするのも見かけます。

 涼しい気候のおかげで、桜の花の見頃は、東京の開花宣言から里では約2週間、山なら1か月近く遅れて迎えます。藤なども同様で、時期をずらして訪問していただければ、もう一度楽しむことも。

 白樺高原というくらいですから、山に登る道すがらのシラカバ並木が圧巻の景色なのは言うまでもありませんが、ぜひ見ていただきたいのは立科町ならではのリンゴ。ちょうどゴールデンウィーク前後になると、1つの芽に5つの白い花を咲かせます。なだらかな丘陵地に広がる畑は、ほかではなかなか見られない景観といってもいいでしょう。

 ただし、花が咲くとリンゴ農家さんの「摘花」という作業も始まる季節です。大きくておいしいリンゴを実らせるため、1つの花を残して摘み取ります。桜ほどの華やかさはありませんが、花を愛でる期間の短さからも希少性は高いでしょう。これからリンゴの実になっていくことを思うと、健気な花が愛おしく見えます。

 女神湖や白樺湖を中心としたエリアは、バブル期には一大リゾート地としてにぎわいを見せていました。もちろん、今も多くの観光客にお越しいただいていますが、一時の栄華に及ばないのは事実。時代は変わるものです。高級ホテルや派手なアクティビティはほかに任せて、立科町が誇るべきはやはり自然なのだと思います。それが、東京から移住してきた者の実感です。

(芳賀 宏)