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在宅医療を希望する死期が迫った夫 躊躇する妻を変えた驚きの行動とは

公開日:  /  更新日:

著者:Hint-Pot編集部・白石 あゆみ

東京医療保健大学の櫻井智穂子准教授【写真:Hint-Pot編集部】
東京医療保健大学の櫻井智穂子准教授【写真:Hint-Pot編集部】

弱りゆく夫の姿にすべてを受け入れた妻

 それからしばらくして、櫻井准教授はAさんの夫が自宅で亡くなったことを耳にした。Aさんの夫が亡くなる数日前のこと、訪問看護師がAさんのご自宅に伺ったときには、もうあのふわふわ、おっとりとしたAさんはいなかったという。

「看護師がAさんに様子を聞くと、『私、このままおうちで看取ります』と、力強くお答えになったそうです。恐らく患者さんと自宅で一緒に過ごしているうちに、段々とご主人に死が迫っていることを受け入れていくことができたのでしょう。それと同時になんとかやっていけるかもしれないという実感を持たれたんだと思います」

 周囲のサポートとAさんの覚悟とが合わさり、最期はAさんの夫の願い通り、自宅で療養し、息を引き取ることができたのだ。

「今思うと、緩和ケア病棟で思い切り言い争いをしたのが、かえって良いほうに働いたのではないかなと思います。言いたいことを言い合い、お互いの素直な気持ちを打ち明け合ったことで、Aさんは受け入れることができたのでしょう」

 死期が迫る人を前にすると、過剰に気をつかったり、遠慮がありながら接してしまう人も多いという。しかし、変な隔たりがある状態で、互いに胸の内が言い合えないまま、いたずらに時間だけが過ぎていってしまうことも少なくないようだ。

「あれほど最初はか弱そうに見えたAさんでしたが、そんな力があったんだとびっくりしましたね」

 言い争いをしたことで、その一瞬はお互いに嫌な気持ちだったかもしれないが、お互いの率直な思いを理解し合えた状態で最期のときを迎えられたAさん夫妻。悔いのない最期を迎えるためにも、家族で腹をわって話す。そんな習慣を元気なうちから身につけておきたい。

※編集注 「緩和ケア」は、がんと診断された時から提供されるものであると第2期がん対策推進基本計画(平成24年)で示されており、必ずしも終末期に限って提供されるものではありません。
 

◇櫻井 智穂子(さくらい・ちほこ)
東京医療保健大学 医療保健学部 看護学科 准教授。看護学博士/看護師/保健師。2010年千葉大学大学院看護学研究科修了。同大学院看護学研究科(特任講師)を経て2013年より現職。研究テーマは、「エンドオブライフにかかわる意思決定に関する研究」「終末期の緩和を目的とした療養についての患者と家族の決断を支える看護援助に関する研究」。

(Hint-Pot編集部・白石 あゆみ)