Hint-Pot | ヒントポット ―くらしがきらめく ヒントのギフト―

仕事・人生

場所変われば売れ筋変わる 「リンゴ売りのおじさん奮闘記」 経験と学びは財産

公開日:  /  更新日:

著者:芳賀 宏

昨年の東京・青山でのマルシェ参加時の様子【写真提供:芳賀宏】
昨年の東京・青山でのマルシェ参加時の様子【写真提供:芳賀宏】

「地域おこし協力隊」として、2021年に長野県立科町へ移住した元新聞記者の芳賀宏さん。産業振興担当として立科町でリンゴ農家さんのお手伝いや立科町のPR活動に従事しています。連載第4回の今回は、昨年12月に初めて出店した東京・青山でのファーマーズマーケットの体験記です。「物を売る」という人生初の体験から得た学びとは、どんなことだったのでしょうか。

 ◇ ◇ ◇

隠れた人気者 希少な長野県・立科産リンゴの魅力を県外にPR

 2年前、立科町に移り住んだ5月はリンゴの花が満開の時期。圧巻の景色に目を奪われました。しかも、町の人々に聞けば「長野県のなかでも立科のリンゴはとくにおいしいと評判。近隣からも買いにくるほど」と口をそろえて言うではないですか。

 私が「地域おこし協力隊」として長野県立科町に着任し、多くの時間を割いてきたのは町の特産品であるリンゴ栽培に関わる業務です。

「立科町のリンゴをもっと知りたい!」

 調べてみると意外な数字がわかってきました。農林水産省による都道府県別の収穫量割合によると、第1位の青森県が63%に対して、第2位の長野県が17%と、青森が断トツであることは否めません。どうりで、東京のスーパーで「長野県産」のリンゴを見かけることが少なかったわけだと合点がいきました。なかでも立科産は約3000トン、その多くが県内と周辺で消費されるため、東京や大阪で出会う機会が限られているのです。

 食べたら本当においしい。それなのに、知られていないのは残念でならない。だからこそ真価を問いたい。

 そこで、移住前によく覗いていた東京・青山の国連大学前でほぼ毎週末に開催されている「ファーマーズマーケット@UNU」ならば、お客様の反応を知るには絶好の舞台になると考えました。

 しかし、なんと移住1年目の2021年春に遅霜による被害があり、収穫量や品質に多大な影響が出たためにやむを得ず出店を断念。そのため、計画を翌2022年に持ち越したことで、満を持しての出店となりました。

東京・青山のファーマーズマーケットへ 2年越しの初出店

 東京出店の最大の狙いは「認知度アップ」と「マーケティング」。「ファーマーズマーケット@UNU」には、1日平均1.5万人が訪れ、全国から気鋭の農家さんや生産者さんが出店していて、その盛り上がりや勢いは年々増しています。

 今回の出店では、「地域おこし協力隊」として日々の栽培管理を手伝っている2軒の農家のリンゴを売ることが目的。出店にあたってのプロセスでは、栽培環境、農家さんの使用状況や頻度、独自サイトの有無などの質問に答え、リモートでの面接も受けました。

 晴れて出店許可をもらったのは、メイン品種の「サンふじ」の収穫がまさに始まろうとしていた11月初旬。こうして12月11日、12日の出店が決定しました。出店する以上は、希少な立科産リンゴの魅力をPRするにふさわしい売り場作りの準備が必要です。

 まずは服装です。地方物産展などで見かける法被姿で売り込むのだけは「いただけない」と思っていたところ、主催側からの出店要項に「法被、のぼりは禁止」と書いてあるではないですか。店頭に立つのは私と、リンゴ農家1年目で1歳年上の「協力隊」同期という“おじさんコンビ”なので、奇をてらってもダメ、かといって何もしないのもダメ。

 結局、キャップにデニム生地のエプロンというシンプルなスタイルに決めたところ、若い知人らから合格点をもらいました。また、リンゴを並べる什器には、農家の倉庫で発見した古い木のリンゴ箱を使い、ポップや看板作りには若手の協力隊員も協力してくれました。