仕事・人生
場所変われば売れ筋変わる 「リンゴ売りのおじさん奮闘記」 経験と学びは財産
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テレワークで長野に滞在していた女性デザイナーも協力 おしゃれなアイテムで勝負
もっともこだわったのは、いかに「立科リンゴ」をアピールするか。当日お客様に配布する印刷物として、立科産リンゴの“おいしい理由”を記した、クラフト紙のカードとステッカーを用意。これらは、長野県に期間限定の“お試し”で移住しながら仕事などを行える県の支援事業「おためしナガノ」で滞在されていた県外出身の女性デザイナーに作成を依頼し、おしゃれに仕上げてもらいました。
元新聞記者と元公務員の“おじさんコンビ”に、学生時代のアルバイトを除けば販売の経験などありません。しかも売るのは「サンふじ」のワンアイテム。「どれだけ持っていけばいいのか?」「価格はいくらが適正?」など、すべて手探りの出たとこ勝負です。
“規格外”リンゴが人気 消費者の意外な声を直接聞く機会に
まだ真っ暗な午前4時、リンゴを積んだバンは一路、東京・青山を目指して立科町を出発。会場となる青山・国連大学前に到着すると、すでに多くの出店者が準備を始めていました。我々に与えられたのは横2メートル、奥行き1.5メートルほどのスペース。午前9時にマルシェが幕を開けると、想像以上にお客様がひっきりなしに訪れます。当日は立科町役場の若い職員1人が手弁当で参加してくれたのが、不慣れな2人にとってはなんと心強かったことか……。
さて、腐心した価格は、「ふじりんご」の代名詞ともいえる「蜜入り」と「大玉」を各200円、「小玉」と表面にサビというざらつきのある「訳あり」は各100円に設定。これはある種のチャレンジでした。日頃、町内の直売所などでは、数個の袋入りか箱入りで売るのが基本。さらに「小玉」や「訳あり」、また大きすぎるリンゴも、農協(農業協同組合)では“規格外”とされてしまうものです。
ところが、売れ行きが良かったのは、むしろ「小玉」や「訳あり」でした。「小さくて食べやすい」「この場で食べ歩きするから」「見た目だけで味に変わりがないなら、『訳あり』でかまわない」というご意見をたくさん聞きました。産地では、見た目もきれいで利益率が高い「贈答用」をいかに確保できるかが農家さんの利益を左右します。しかし、売る場所が変れば、売れ筋も変わるのだということを学びました。
「昨日食べておいしかったから、また来ました」と、2日続けて買いにきてくださったお客様もいらして、これには生産者でもある同僚が感激していました。農家さんは案外、消費者の声を直接聞く機会がありません。マルシェの参加は、この点が最大のメリットだったかもしれません。2日間の売り上げは大した額ではありませんが、我々の得た経験はまさにお金では買えない財産になりました。というわけで、以上が「リンゴ売りのおじさん奮闘記」です。
やってみてわかったことから学ぶ 今年の挑戦 目指すは「立科リンゴの六次化」
経験に勝るものはなし。去年の出店から得た多くの学びをいかし、さらに今年もファーマーズマーケットに挑戦するつもりです。今年の出店目的は「立科リンゴの六次化(六次産業化)」、つまり生産者による販売と付加価値をつけるブランディングです。
他の出店者と話してみると、同じ考えの方は少なくないようでした。あらゆるアプローチ方法を探りながら、新たな挑戦を続けていきたいと思います。
全国で離農者の増加が心配されている昨今、立科町のリンゴ農家も例外ではありません。「地域おこし協力隊」の一員としてリンゴに関わるのは、多くの人に立科町のリンゴの味を知ってもらうだけでなく、後継者や就農希望者を増やし、歴史ある産物を絶やさないための方法を考える取り組みでもあるのです。
(芳賀 宏)