仕事・人生
「デザイン原稿用紙」に込められた思い 「見て」情報を整理する仕組みは自身の仕事から
公開日: / 更新日:
結婚と出産を機にグラフィックデザイナーを退職するも、ママたちが集まる主婦のコミュニティ参加をきっかけに、読書感想文が書きやすくなる「デザイン原稿用紙」を開発した本下瑞穂さん。現在は教育系事業会社の創業者にキャリアチェンジし、活動しています。さまざまな分野で活躍する女性たちにスポットライトを当て、その人生を紐解く連載「私のビハインドストーリー」。後編では、読書感想文がスラスラ書けるように仕組まれた「デザイン原稿用紙」の誕生秘話について伺いました。
◇ ◇ ◇
働いていたときの業務で実践していた仕組みを「デザイン原稿用紙」に採用
子どもの頃を振り返ってみると、夏休みに読書感想文の課題が出ることはあっても、その書き方を授業中などに教わった記憶を持っている人はほとんどいないのではないでしょうか。
そこで本下さんは、「読書感想文が、よく書ける原稿用紙。」「はじめての読書感想文が、よく書ける原稿用紙。」(以下、総称「デザイン原稿用紙」)を作りました。清書用の原稿用紙のほか、読書感想文の書き方をかわいいキャラクターが解説する漫画、「あたまスッキリメモ」というワークシート、下書き用紙がセットになっています。
すると、これが通販サイトAmazonの原稿用紙カテゴリーにおいてベストセラー1位になるなど、「わかりやすい」「使いやすい」と大ヒット商品に。「デザイン原稿用紙」を使って書いた読書感想文が作文コンクールで入賞するなど、多くの実績を残しました。
「デザイン原稿用紙」でポイントになるのは、「あたまスッキリメモ」。課題図書の内容説明、一番心に残ったこと、自分自身の体験、これからしたいことという4つのスペースに分けられており、シートにメモをしていきます。読書感想文を構成するうえで必要な情報が並んでいるため、それに従って書いていくことで読書感想文が完成する仕組みになっているのです。
「この仕組みは、グラフィックデザイナーとして働いていたときにやっていたことがベースになっています。というのも、クライアントの情報を1枚の紙に整理するということをずっとやっていて、結局それは情報の整理だったのですが、読書感想文にも応用できると思ったんです。あとは、子ども向けなのでキャラクターや漫画で子どもの興味を引きながら、わかりやすく伝えることを意識しています」
同じ要領で作成されたのが、「小論文が、よく書ける原稿用紙。」。さらに、産学連携の一環として兵庫県にある武庫川女子大学の協力を得て生み出したのが、漢字を擬人化したキャラクターの「漢字キャラクターあめかちゃん」。部首を擬人化し、親しみやすくしたうえで覚えてもらおうという試みで大人気になっているといいます。
実物を手にしたとき、喜びよりも恐怖のほうが…
構想から2~3年がかりで完成した「デザイン原稿用紙」。実物を手にしたときの喜びは大きかったかと思いきや、恐怖のほうが大きかったと本下さんは言います。
「できあがった商品が手元に届いた時点で在庫になるので、『あー、これを売らなあかんな』『売れるんかな』みたいな感じでしんどくて、怖かったので、原稿用紙が完成した喜びとかはまったくありませんでした。でも、それが少しずつさばけていくのを目の当たりにしたときに、初めて実感が湧いてきましたね」
初版の納品は2000部(その後、改定増刷)。まだ販路を持っていなかった本下さんは株式会社コトバノミカタを設立し、販路を確保していきました。そして発売後の秋から冬にかけて、友人・知人から「『デザイン原稿用紙』を使って書いた読書感想文が、作文コンクールで賞をとった」という報告メールが届くようになったといいます。それを見たときに「ああ、やっぱり作って良かったんだな」とホッとしたそうです。