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人気のジビエも流通は1割未満 活用促進を阻む規制 元記者が伝える狩猟のリアル

公開日:  /  更新日:

著者:芳賀 宏

冬山に銃を持って出猟する芳賀さん【写真提供:芳賀宏】
冬山に銃を持って出猟する芳賀さん【写真提供:芳賀宏】

 現在、長野県立科町で「地域おこし協力隊」の産業振興担当としてリンゴ農家のお手伝いや立科町のPR活動を行っている、元新聞記者の芳賀宏さん。連載第8回となる今回のテーマは、ずばり「狩猟」。銃砲所持許可と銃猟免許を所持する芳賀さんが、害獣駆除目的としての狩猟のリアルと、近年東京で人気となっているジビエの流通の現実についてお伝えします。

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元新聞記者の地域おこし協力隊は本物の「猟師」 地元の高校生に講義も

「猟師になります」

「地域おこし協力隊」としての採用が決まり、知人たちから「何をやるの?」と聞かれたときの返答は冗談半分、でも本気も半分でした。

 東京にいたときに銃砲所持許可と銃猟免許を取得。千葉県内の狩猟グループでシカやイノシシをとり、その様子を当時在籍していたサンケイスポーツのウェブ版でも連載していました。今にして思えば、移住への関心は狩猟がきっかけかもしれません。以前は猟場まで車で2時間近くかかっていたのが、今なら10分。しかも「有害鳥獣駆除」の従事者として報酬もいただいているので、“公約通り”に「猟師になった」とでも言っておきましょうか……。

 最近は「ジビエ」という言葉も広く定着したようです。ジビエとは、野生の獣や鳥など狩猟で得られた食肉を指すフランス語で、国内でも食べられる店が増えてきました。

 狩猟を始めた当初、ベテラン猟師から教わったのは「とったものは可能な限り食べる」ことでした。シカやイノシシは、内臓を取り出し、可食部に分けていくなどして自分たちの手でさばきます。それは「生き物」が「食べ物」に変わる瞬間であり、猟に関わっているからこそ立ち会える貴重な時間です。

 移住1年目の2021年、地元の蓼科高校で生徒たちに講義する機会をいただきました。同校には地域を学ぶ「蓼科学」というカリキュラムがあり、講義を受け持つ県内の大学教授が、偶然にも私が取り上げられたテレビ番組を観たことがきっかけで声をかけてくれたのです。立科町のことについて学ぶ内容で、グループに分かれた生徒たちがテーマを選び学年末に発表します。そこで私が提案したのは「立科町のジビエ」でした。

「百聞は一見にしかず」ということで、生徒たちにはストックしていたシカ肉とイノシシ肉を実際に食べてもらいました。初めての食体験で、「思っていたよりやわらかい」「臭みがなくておいしい」という意見にホッとしました。ジビエというと「臭い」「硬い」と思われがちですが、きちんと処理したものは本当においしいのです。

 その後も生徒たちは、調理法だけでなく獣による農作物被害などを調べたり、農業に従事する親から事前に被害実態を聞いたりしていたようです。自分が住むところにシカがいること、農業や地元の人の生活との密接な関わり、食材としての可能性、そして何より命について学ぶきっかけになってくれたらと願っています。