インタビュー

「アトピーの苦しみは“死なない”からこそ」 長女の発病が転機に 皮膚科学研究にまい進する女性起業家の決意とは

著者:Hint-Pot編集部・白石 あゆみ

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「注射針の要らない医療の実現を」野望を語る山口さん【写真:Hint-Pot編集部】
「注射針の要らない医療の実現を」野望を語る山口さん【写真:Hint-Pot編集部】

QOLを下げる病と向き合う 研究者としての決意

 その後、現在では客員教授も務める聖マリアンナ医科大学で、アトピー性皮膚炎の研究を始めた。大学時代は有機化合物の合成を研究し、ドイツでは物理化学の研究を続けてきた山口さんだったが、全く畑違いの皮膚科学研究の道に飛び込んだのだ。

「医者でも生物学者でもない私だからこそ、見えてくるものがあると思いました。私は元々物理学者なので、人間を生き物としてとらえていません。皮膚も“ただの特殊なシート”だと思っています。しかし、研究内容は変わっても『人の役に立ちたい』という信念は同じですね」

 その後、薬を身体の中へ効果的に運び入れる最先端技術DDS(ドラッグデリバリーシステム)を生かし、起業。化粧品の自社ブランド立ち上げへと繋がっている。

「アトピーの苦しみは“死なない”からこそ。『こんなにかゆいなら死ねたらいい』と思うくらい常時かゆい、でも死ねない。だから辛いんです。現在、なぜアトピーになるか、そのメカニズムは見つけました。一生再発しないようにしてあげよう、もっと言えばアトピーの子を産まれないようにしようというのが、私の目標です」

 生きるか死ぬかになってしまう親子がいるほど辛い病気であることを、身をもって知っているからこそ、山口さんはこれからも命にはかかわらないけれど、QOLを下げる病の人達を助けていきたいという。

「アトピーの子を持つ世のお母さん達は、きっと食べ物や世話の仕方がいけないのではないか、自分のせいで子どもが苦しんでいるのではないかと悩む人も多いと思います。でも全然違います。私が研究して、そうじゃないということが分かりましたから大丈夫。悩まなくていいんですよ」

 アトピー性皮膚炎のみならず、現在では上皮系の臓器の研究にも積極的に取り組んでいるという山口さん。アフリカなど、医療従事者の不足する地域の人達を救うため、「注射針の要らない医療」の実現を目指し、針を使わずに接種ができるワクチンを作りたいと目を輝かせた。今後の躍進が期待される。

◇山口葉子(やまぐち・ようこ)
株式会社ナノエッグ 代表取締役。聖マリアンナ医科大学 難病治療研究センター客員教授。科学技術振興機構プレベンチャー事業サブリーダーを経て、2006年4月に株式会社ナノエッグを設立、代表取締役社長に就任。2012年、「JAPAN Venture Awards中小企業庁長官賞」受賞。2017年には起業家として、「第3回日本ベンチャー大賞」の経済産業大臣賞「女性起業家賞」を受賞。ドイツBayreuth(バイロイト)大学自然科学郡(Prof.Dr.H.Hoffmann)卒業、理学博士。

(Hint-Pot編集部・白石 あゆみ)