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仕事・人生

元記者が体験した地方移住 田舎暮らしで感じたお金のリアルと生活の知恵とは

公開日:  /  更新日:

著者:芳賀 宏

地方地域の水道光熱費事情は? 燃油代高騰は生活へダイレクトに影響

 長野県は国内でも1、2位を争うほど燃料代の高い県といわれ、なかでも立科町のある東信地区は県内でも屈指の高価格というのが、実際に暮らした感想です。鉄道がない地域だけに車なしでは生活が成り立たないのですが、ガソリンは都内と比べて1リットルあたり20円は高く、30リットルでは600円の差になるため、たかだか20円とはいえ侮れません。そこで帰京の際には、ギリギリの量で東京に帰り、満タンにしてから立科町に戻るという小さな節約マイルールがつきました。

 ガソリン価格が高いということは、もちろん灯油の価格も同じです。寒い冬の必需品なので買わないわけにはいきませんが、18リットルのポリタンクに満タンで2000円前後。現在、アパートでの単身暮らしながらひと冬で5回以上は買うので、家族が多ければさらに増額となるでしょう。北海道のように「寒冷地手当」「暖房手当」がある地域がうらやましいとさえ思えてきますが、代わりに夏はエアコンをほぼ使いませんので助かります。

 生きていくうえで欠かせない水道水も、立科町はちょっと高いようです。総務省によると、総世帯の月平均の上水道代は約4200円、3人家族の場合で約5700円です。立科町がウェブサイトで示している平均は2か月で1万3590円(1円単位は切り捨て)ですから、月平均は6795円ということになります。地方は、人口減少や設備の老朽化に伴う修繕費用などから高くなりがちといわれるので、これは長野県だけに限った話ではないかもしれません。

 ただし、立科町は水の“質”が自慢です。江戸時代初期、六川長三郎という人が蓼科山の水源から農業用水を引いたのが始まりとされており、蓼科水系は軟水の名水としても知られ、おいしい日本酒も醸されています。蛇口をひねるだけで十分においしい水が飲めるので、市販の水を買う必要はありません。

 調理にかかる光熱費ですが、我が家のガスはプロパンガスです。都市ガスに比べて価格は約1.8倍だそうですが、今からインフラ整備を要望するのは現実的ではありません。むしろ、災害時の復旧に時間がかかる都市ガスに対し、ボンベが家にあるプロパンガスなら制御も再開も比較的簡単だというメリットもあります。

田舎暮らしでしか味わえない「無尽」は大切なコミュニケーションの場

「田舎暮らしはかえって高くつく」という話も聞きますが、そこはどんな暮らし方をするか。どこにいてもメリット、デメリットはあるものです。

 最後に、お金にまつわるおもしろい風習をお伝えしたいと思います。

「無尽」あるいは「無尽講」という言葉を聞いたことがあるでしょうか? 恥ずかしながら、私はまったく知りませんでした。簡単に言えば、あるグループごとに互助的にお金を毎月積み立て、それをもとに旅行へ行くこともあれば、一定時期にまとまったお金を受け取ることもある金融システムです。いろいろネット検索をしてみると古くから各地にあったようで、やり方もさまざま。山梨県などでは今も数多く行われているそうです。

 立科町では「今夜は無尽だから」と出かけていく人によく会います。趣味の集いや学生時代の仲間など、複数の無尽をかけ持ちしている方もいました。私もひとつだけ参加しているのですが、それはカラオケ好きな70代を中心にした先輩方(!)の集まり。毎月第1土曜日が「無尽の日」で、積立金と飲食代を払ってあるお店に集合し、ワイワイガヤガヤと飲んで食べて歌うのですが、何より楽しいのは昔の立科町の話を聞き、町の実情を教えてもらえることです。

 コミュニケーションの場として機能する「無尽」は、田舎暮らしでしか味わえない慣習かもしれません。

(芳賀 宏)