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ユニークな「農業」「観光」「移住促進」が地域活性化のキー 元記者が「地域おこし協力隊」退任前に考える

公開日:  /  更新日:

著者:芳賀 宏

シラカバ林保全活動、古民家改装サウナ、ワイン畑の開墾などで地域活性化

 立科町には、いろいろな分野において光るポテンシャルがあります。それを引き出すヒントと、刺激を与えてくれる先輩移住者がいるのでご紹介しましょう。

シラカバの間伐材を集め森の保全活動を続ける方々【写真提供:芳賀宏】
シラカバの間伐材を集め森の保全活動を続ける方々【写真提供:芳賀宏】

シラカバ林保全とクラフト
「信州白樺クラフト製作所」代表の渡部ゆかりさんは、神奈川県から移り住んでこられました。配偶者さんは、女神湖近くで飲食店と宿泊施設を経営されています。白樺高原の景観を彩るシラカバ樹林を守る活動の一環として同団体を設立し、昨年、法人化しました。

 コンセプトは「白樺高原の景色を未来の子どもたちに引き継ぎたい」。先日も倒れたシラカバの伐採・管理を手伝わせてもらいましたが、シラカバの葉で作ったノンカフェインのおいしいお茶、樹皮で編み込まれたカゴなど工芸品も素敵です。ワークショップを積極的に開催され、商品の売り上げの一部は森林保全に役立てられています。こうした活動の広がりは地域活性化の一助になっていくでしょう。

外観は古い米蔵、内部は最新素材のユニークなサウナ【写真提供:芳賀宏】
外観は古い米蔵、内部は最新素材のユニークなサウナ【写真提供:芳賀宏】

古民家改装のサウナ
 ユニークな施設を作った國澤慎治さんは、兵庫県からの移住者です。古い米蔵を改装した「DOMA SAUNA(ドマサウナ)」は、床に土間を採用したところからきています。天然素材ながらカビが発生しない最新の建築資材を使っているのがポイントです。オーダーメイドの薪ストーブが放つやわらかい熱、アロマ香るロウリュ、雄大な景色を臨むウッドデッキでの外気浴、井戸水を汲み上げたばかりの水風呂を体験したら“ととのう”こと間違いなし!

「水も空気もおいしい立科町を味わってほしい」という國澤さんは、宿泊施設の少ない町の里エリアで一棟貸しの宿を経営するほか、サウナの横に古民家を改装した宿泊施設を建設中という“やり手”。概念を覆すいろいろな手法は、勉強になっています。

立科町のワイン
 東京で金融業界にいた伊澤貴久さんは、50歳のときに転身を決意。長野県東御市のワインアカデミーで学び、立科町に「いざわの畑」をひらいて10年目を迎えました。カベルネ・ソーヴィニヨン、シャルドネなど欧州系品種のブドウを栽培しています。

 リンゴ同様、ブドウの木々の管理など手伝わせてもらう仕事は手作業です。農業について語られる際に、その過酷さや自然との闘いなどがよくフォーカスされますが、それらが決してオーバーな表現ではないことを実感します。一方、10月にボランティアを募って行う収穫は毎年大人気で、作業中にちょっとつまんで食べるワインブドウがとても甘いことを初めて知りました。

「探し歩いて選んだ土地。日本のワインのおいしさを知ってほしい」と伊澤さん。近年、長野県産のワインは生産量が増え評価も高まっています。「千曲川ワインバレー」と呼ばれる東信地区、なかでも立科町のワインをぜひ味わいに来てほしいですね。

「地域おこし協力隊」や田舎での暮らしこそが「学びの場」

 現在、「地域おこし協力隊」の仲間にはリンゴ農家として独り立ちを目指す元公務員、移住促進のためのアイデアを次々と考案するコンサルタント、空き家の利活用による活性化を計画する2人の建築家もいます。私は発信力の強化以外に、シカなどのジビエを供給する解体施設や地域に人を呼び込むためのプランを模索しながら、退任後も町との関係を継続していくことを検討中です。

「チャレンジに年齢は関係ない」と言うのは簡単ですが、過去に実績や経験値がある分、年を重ねるにつれ新しいことに挑む勇気が損なわれていくように思います。50代半ばに思い切ってこれまでの世界を飛び出し、今まで見ることのなかった世界に触れ、接点のなかった職種や人々に出会えました。自分の知識の乏しさを思い知らされることで新鮮な気持ちになり、人生の先輩だけでなく若い人たちからも素直に教えを請えるようになったのです。

 最近はリスキリングとして大人の学び直しがムーブメントを起こしています。私にとって「地域おこし協力隊」での活動や田舎での暮らしこそが、まさしく「学びの場」なのです。

(芳賀 宏)