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仕事・人生

東大から林業の道へ チェーンソーを手に森と向き合う決意をした30代女性の原点

公開日:  /  更新日:

著者:Hint-Pot編集部・出口 夏奈子

“修行”と決めてスタートした社会人生活 東京チェンソーズとの出会い

 日本の森林問題を学んだ飯塚さんでしたが、大学卒業後に就職したのは、森林とは関係のない国際見本市を主催する都心部の会社でした。その理由は「いきなり森林とか環境に関する仕事に就くよりも、社会人としての一般的な感覚を身につけたいと思った」から。最初の3年は、社会経験をするための“修業”と決めていたそうです。東京ビッグサイト(東京都江東区)で開催されるITやものづくりの展示会を担当し、セールスプロモーションやウェブ、制作物などさまざまな経験を積みました。

 社会人としてさまざまな仕事を経験していくなかで、「現場から発信することと、現場で手を動かす人はすごく大事だ」と実感したそうです。それは、学生時代にも研究室で言われていたことで、「現場に行け」という恩師からの言葉の意味を理解することができたといいます。

 最初の3年が経過し、転職先を探していたときに「たまたま見かけた」本が、東京チェンソーズの本でした。

「本を読んで、ウェブサイトを見たらビビビときて(笑)。ここにどうしても入りたいと思ってアプローチしました」

 東京チェンソーズは、まさにこの“現場”をやっている会社。「現場を土台としながら新しいことにも挑戦しようとしている点、書籍やホームページからにじみ出る社風や代表の人柄も魅力的だった」と、そのときの印象を振り返ります。

「ツリークライミングのイベントなどもやっているようだったので、ここなら私が入り込める隙があるかもしれないと思いましたし、チェンソーズという会社で日本の森林を良くするひとつの先行事例というか、モデルケースを作れたらいいなと考えました」

 やりたいことが明確になれば、あとは突き進むだけ。飯塚さんは当時、「社員の募集もしていなかったのに履歴書と職務経歴書を送り付けた」と持ち前のアグレッシブさを発揮します。そして「現場体験をさせてください」と直談判。実際に、山の歩道作りの現場を体験させてもらったそうです。

「1日やらせてもらったんですけど、『あれ? 意外と楽しいじゃん!』と感じたんです。現場までは、長靴を履いて、山道を歩いて行かなければいけなかったんですけど『歩くの、けっこう早いね』って褒められると調子に乗っちゃって『これ、行けるかも』って(笑)」

「何より、自分自身がやっていて楽しくないと続かないですからね」

 そう笑顔を見せる飯塚さんは、28歳でついに東京チェンソーズへ入社。念願の林業に携わることになりました。

◇飯塚潤子(いいづか・じゅんこ)
茨城県生まれ。林業には無縁の学園都市・つくば市で育ち、東京大学理科二類から農学部森林環境科学に進学。森林政策学研究室に所属。大学卒業後は国際見本市を主催する会社で主にセールスプロモーションに従事。その後、転職を考えていた時期に東京チェンソーズの書籍に出会い、「ビビビときた」と入社を決意する。1年間の林野庁外郭団体の契約職員を経て、29歳で東京チェンソーズに入社し、念願だった林業の世界へ。現在の夫と出会い、2015年に結婚。東京都本土で唯一の村である檜原村に移住し、現在は2児の母として子育てに悪戦苦闘しながら日々、楽しく仕事をしている。

(Hint-Pot編集部・出口 夏奈子)