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夏休み、孤立する「ヤングケアラー」 介入しても大丈夫? 周囲の大人はどうすれば

公開日:  /  更新日:

著者:Hint-Pot編集部/クロスメディアチーム・水沼 一夫

ヤングケアラーに気づいた大人はどうすればいいのか(写真はイメージ)【写真:写真AC】
ヤングケアラーに気づいた大人はどうすればいいのか(写真はイメージ)【写真:写真AC】

 いよいよ今週から夏休みが始まります。友達と遊びに行ったり、家族で旅行に出かけたり、長期休暇を待ち切れない子どもたちも多いでしょう。一方で、ヤングケアラーと呼ばれる子どもは状況が異なります。学校がない分、親の介護や世話に追われる時間が増え、孤立を深めてしまうことも。身近にヤングケアラーと思われる子どもがいた場合、周囲の大人はどう接したらいいのでしょうか。ヤングケアラーに詳しい医師と専門家に話を聞きました。(取材・文=Creative2クロスメディアチーム・水沼一夫)

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健常とされる子どもが、大人が担うような家事や介助に追われる

「ヤングケアラー」は英国発祥の言葉といわれ、日本に明確な定義はありません。対象の年齢についても、都道府県によって「18歳未満の子ども」「18歳の3月31日まで」とばらつきがあります。18歳から30歳代までを「若者ケアラー」と呼ぶこともあります。

 具体的に、どのような子どもをヤングケアラーと指すのでしょうか。

「本来は大人が担うような家事や炊事、洗濯や入浴介助を健常とされる子どもがやっている状態をヤングケアラーと言います。ヤングケアラーと言われる子どもたちは、本来、自分が青春として楽しむべき時間、また勉強するべき時間を家族の介助や介護に取られます。まず大きな問題は学習に支障が出ること、あとは友達との交友関係が作れないことが大きいです」

 こう説明するのは、こころと美容のクリニック東京院長で児童精神科医の大和行男さんです。家事を手伝うだけでなく、経済的な理由でやむを得ず働く子どもも含まれます。

「親が経済的に厳しい場合はアルバイトに行っている高校生もけっこういて、朝に新聞配達をして夜は飲食店で働いている子もいるんですよね。そうなってくると学業に専念できずにお金を稼ぐことを優先してしまう。それをしてもらわないと困るという親もいますし、申し訳ないけどしてくれという親もいるので、そこが課題だと非常に思います」

 当然、子どもの将来に大きな影響を及ぼします。大学進学を諦め、望んでいた業界への就職ができない、さらに対人関係がうまく作れないなど、のちのち取り返しがつかない状況に陥ることも少なくありません。

 一方、一般社団法人ヤングケアラー協会事務局長兼広報で公認心理師の小林鮎奈さんは「ヤングケアラー自体が悪いわけではない」と訴えます。

 小林さん自身も、かつてヤングケアラーでした。母が精神疾患を発症し、「小学2年生から24歳ぐらいまで、ずっと症状に波があって、小学生の頃は毎日夕飯を作っていました」といいます。父や兄は頼れず、母の世話や家事、家の戸締まりなど、ほぼひとりでこなす日々。中学時代は生活がいっぱいいっぱいになり、不登校の時期もありました。母に回復してもらいたい一心で、気持ちは前向きでしたが「子どもがそのケアを担っていることで自分の人生の選択肢が限られてしまう状態だと、やっぱりヤングケアラーとしての困難が大きいと思います。そういった場合は支援なり、大人がその子に手を差し伸べることが必要になると思います」と話します。

ヤングケアラーだと思ったら? 積極的にしてほしい声がけ 注意点も

児童精神科医の大和行男さん【写真:Hint-Pot編集部】
児童精神科医の大和行男さん【写真:Hint-Pot編集部】

 ヤングケアラーは、夏休みの過ごし方もほかのクラスメイトと同じようにはいきません。そうしたとき、力になってあげられるのは周囲の大人です。ヤングケアラーと思しき子どもを見かけた場合、どのように対応したらいいのでしょうか。

 大和さんは、「赤の他人だとなかなか背景が見えないと思うので、ご近所や幼なじみ、自治会やご親戚の方が『ちょっと何かおかしいな?』と感じたときに、その子にお声がけしていただくのが一番いいと思いますね。『何か困っているの?』というよりは『何かあったら相談してね』という言い方がいいでしょう。『ヘルプを出す』ことが、ヤングケアラーにとっては封印された言葉になってしまっているので、そういうことを出していいよと言葉で伝えてほしいです」と指摘します。

 小林さんも「関係性にもよりますが、よく接する機会のある近所の方やご親戚の方は声がけも含めて、積極的に気にかけてあげていいのではないかなと思います」と、能動的な関わりを後押ししました。

 ただ、注意しなければいけないのは声のかけ方です。

「その子のことを知ろうとして声をかけることが大事だと思いますね。『どんなふうに過ごしているの?』でもいい。ケアに対して本人がネガティブじゃなかったら、ただ認めてあげるだけでもいいと思います」と小林さん。

「よく聞くのが『ヤングケアラーだから大変』『ヤングケアラーだから支援につなげなきゃ』とか、『ヤングケアラーにしちゃいけないんだ』という言葉ですが、それだと子どもが声を上げづらくなってしまう」。ヤングケアラーは「母のために」など、もともと家族思いの気持ちが強いです。かける言葉によっては、かえって苦しめる結果になってしまいます。

「今やっていることを認めつつ、子どもがどうしたいのかを聞いて、子ども自身の声をしっかり聞いてあげる。大人が決めるのではなく、その子が自分のことを考えて選択できるように関わってほしいです」

 家族のことを少しでも話したくなるような雰囲気を作るだけでも、違うといいます。ヤングケアラーは自分より大変な人が身近にいるので、自分自身のことをおろそかにしがちです。小林さんは、友達の母から「ごはん食べていく?」と声をかけてもらうだけでも心が楽になったと振り返りました。