仕事・人生
建築家として向き合う地方地域の空き家問題 リノベだけでない利活用の方法とは
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元新聞記者の芳賀宏さんが、「地域おこし協力隊」として長野県立科町に移住して2年。「協力隊」としての活動を10回の連載でお伝えしてきましたが、その間に現地で一緒に活動してきた隊員たちにもさまざまなキャリアや思いがありました。そこで、立科町で「協力隊」として活動する隊員たちを芳賀さんがご紹介します。初回は、空き家の利活用として「町かどオフィス」をオープンした建築家の永田賢一郎さんです。前編では、「協力隊」としての思いや使命について話を伺いました。
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建築家のスキルを地域の空き家利活用に
都市部から過疎地域などに着任し、地域振興やPR活動などを行う「地域おこし協力隊」。総務省の事業として2009年にスタートし、現在は6000人を超える隊員が各地で活動しています。長野県の東部に位置する立科町では、現在5人がそれぞれの得意分野で奔走中。永田賢一郎さんは建築家として神奈川県横浜市で設計事務所を運営しながら、立科町では空き家をいかした町づくりという設計図を描いています。
旧中山道の「芦田宿」は、日本橋を出発してから26番目の宿場。立科町の中心部として、昭和40年代までは飲食店や青果店、衣料品店などがひしめく商店街としてにぎわっていました。現在は創業130年のみそ店など数軒が残るだけですが、その一角に、もとは食品や雑貨を売る商店だった趣ある築120年の古民家があります。それが、永田さんの前線基地である「町かどオフィス」です。
「子どもの頃はよく蓼科高原に遊びに来ていたので、“たてしな”のことは知っていたんです。横浜での活動のほか、少し幅を広げたいと思っていたときに目にしたのが『協力隊』の募集告知でした」
求められていた人材は「観光振興担当」と「移住定住担当」。すでに横浜市内でシェアキッチンやシェアスタジオなどを手がけていましたが、建築家としての次なるステップを模索していたときに知ったのが「協力隊」の活動でした。建築家は住みたい人の相談を受けて形にしていくのが仕事。そのために、「拠点を持つことで地域との関係性を築ける」と気づいたそうです。
建築家のスキルは、空き家のリノベーションや古民家の利活用を推し進めたい自治体にとってのどから手が出るほど欲しい人材です。しかし、採用が決まった2020年4月は、まさに新型コロナウイルス感染症によって世の中が混沌とし始めた時期でした。配偶者と移住を決意したものの、最初の緊急事態宣言が発出。着任は予定より約1か月遅れた同年6月でした。