仕事・人生
建築家として向き合う地方地域の空き家問題 リノベだけでない利活用の方法とは
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アイデアを形にして示す 建築家として挑む「町の再生」
立科町には300軒近い空き家があります。もちろん、所有者と居住希望者をつなぐ空き家バンクもありますが、直面したのはなかなか登録数が増えない現状でした。永田さんは「持ち主の多くが、古い空き家をどう利用したらいいかイメージを持てずにいるのがわかりました」といいます。離れた場所からではなく、この町で暮らし、直接聞くことができたからこそ理解できたことです。
それなら、建築家としてできることはなんだろうか? リノベーションを含め、今ある家をどうするか、そのアイデアを形にして示すことができれば伝わるのではないかと考えたそうです。
「町かどオフィス」がオープンしたのは、着任から半年あまりの2020年11月でした。「なにより町の中心にあって、佇まいも風情も素晴らしかったです。簡単な掃除をするくらいで、改装費用はわずか3万円。これも利活用のひとつの例になるかなと思っています」と語ります。水回りと空調設備はありませんが、目と鼻の先に町の施設があるので不自由は感じていないそうです。
誰もがふらりと立ち寄れて、気軽に相談ができる。空き家の所有者に具体的な改修のプランや活用法を見せてプランを練る一方、借りたい人には情報を提供するなど気軽に相談ができる場所です。
詳細なジオラマモデルも作りますが、現実に見てわかりやすい形にするため、永田さん自ら空き家を借り受けて具体的なリノベーションも始めました。所有者のご厚意により格安の賃料で7年契約を結び、1階はカフェ、2階は居住スペースとして、さらに別棟は民泊施設にすべく計画中です。ただ、「業務があまりに忙しすぎて、自分のところの作業が一番遅れてしまって……」と頭をかきます。
パソコンのモニターや建築に関する書籍類が並ぶ以外は、かつての商店のまま。「町かどオフィス」の中には、昭和世代にとって懐かしいちゃぶ台、たくさんの壁かけ時計、昔のはかりなど、アンティーク好きなら垂涎のお宝が所狭しと飾られています。
「近年の古民家人気でもわかるように、新しければいいわけではありません。実は時計なども、空き家の改修などを手がけるなかで蔵に眠っていたものをいただくなどしたもの。こうした物の価値に気づいていない人は意外に多いんです」
町の再生には、価値の再確認という側面もあります。古い部分をいかしながら、現代の生活に耐え得る仕様に生まれ変わらせる。参考例がひとつでも増え、多くの町の人たちに浸透していけば、サイクルは回り始めるはずです。
「協力隊」の任期を1年延長してもやり通したいこと
永田さんは今年5月、「協力隊」としての任期を1年延長しました。通常は3年ですが、コロナ禍で活動が制限されて思うように進まなかったことから決断したそうです。
「やり残したことがたくさんあるのでお願いしました。形にしていくこと、空き家や移住者を呼び込むための流れを作っていかなければいけないと考えてのことです」
異例の「協力隊」4年目。まずは「町かどオフィス」の目の前にある元薬局を改装し、横浜で実施しているシェアキッチンスタイルの店舗の設置に取り組み始めました。昨年も、町のイベントや、地元にある県立蓼科高校の生徒らがイベントスペースとして実験的な使用をしてきましたが、本格的な稼働を目指します。
より具体的に業務を進めるためのアクションとして、建築家の仲間や「協力隊」の後輩らと「合同会社T.A.R.P」(タープ/Tateshina Area Relation Platform)を設立。空き家の活用や地域からの発信に力を注ぐ考えです。
「エリアリノベーションといいますが、住居だけでなく町にどうやって人を呼び込む流れを作れるか。それが、新しく起こした会社の業務で、僕らの使命だと思っています」
(芳賀 宏)
芳賀 宏(はが・ひろし)
千葉県出身。都内の大学卒業後、1991年に産経新聞社へ入社。産経新聞、サンケイスポーツ、夕刊フジなど社内の媒体を渡り歩き、オウム真理教事件や警視庁捜査一課などの事件取材をはじめ、プロ野球、サッカー、ラグビーなどスポーツ取材に長く従事。2019年、28年間務めた産経新聞社を早期退職。プロ野球を統括する日本野球機構(NPB)で広報を担当したのち、2021年5月から「地域おこし協力隊」として長野県立科町に移住した。