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伝統製法にこだわる塩職人が直面するプラスチックゴミ問題 米在住ナチュラリストが学んだこと

公開日:  /  更新日:

著者:小田島 勢子

自然と向き合う職人ならではのこだわり

数年に一度しかできないといわれる、5センチ以上のピラミッド型の塩の結晶【写真:小田島勢子】
数年に一度しかできないといわれる、5センチ以上のピラミッド型の塩の結晶【写真:小田島勢子】

 作業を進めるなかで、末澤さんは私の知らなかった海と塩の関係のお話をしてくださいました。

 彼は、その土地の特徴や地形によって変化する潮の満ち引きでの海水濃度など、独自の研究を重ねてきました。そこから、干潮よりも満潮時のほうが海水が澄み渡りきれいであること、そしてミネラル分が豊かで塩気が少ない味になることから満潮時に取水を行うという、自然と向き合う職人ならではのこだわりもあるそうです。

 しかし、ただただミネラルが豊富=おいしい塩ということではありません。ミネラルバランスによって味わいは異なります。彼がおいしいと感じる塩が作れる場所としてめぐり合った土地が、淡路島だったそうです。

 海のミネラル成分をどういかすかで、できあがる塩の風味が決まるといいます。火加減やその日の天候、水質を観察して、職人の経験と感覚で塩を育てていくことがとても大切なのだそう。

「塩作りでただただ水分を飛ばすばかりでは、最終的にマグネシウム(にがり)を大量に含む苦みが強い塩となり、決しておいしいとは言えません。おいしい海塩のできあがりには、釜揚げのタイミングがとても重要になってきます」

 彼はまるで我が子を抱くように、釜の表面に結晶化して浮いてきた美しい塩の花をすくい上げて説明してくれました。

プラスチックゴミ問題を見つめ直す機会に

できたて熱々の海塩【写真:小田島勢子】
できたて熱々の海塩【写真:小田島勢子】

 さらに、彼は現代の大きな環境問題のひとつである、海中のマイクロプラスチック問題にも対応しています。

 自然海塩、天然塩は精製塩と比較してミネラルが豊富に含まれると同時に、海水由来のマイクロプラスチックも含有されていることが多々あります。

 その点、彼が作るこの塩は、工程でマイクロプラスチックを除去しているそう。しかし、「それでもナノプラスチックまでは取り除けません」と彼は言います。

 おいしい塩を安全に食べてもらいたい思いが伝わってきた一方で、地球上で唯一プラスチックを生産・利用・廃棄している人類である私たち一人ひとりが心がけるべきことも痛感しました。

○取材協力:五色の浜雫
※一般の方の見学はお断りさせていただいています。

(小田島 勢子)

小田島 勢子(おだしま・せいこ)

ナチュラリスト。結婚を機に2004年に南カリフォルニア州へ移住し、3人の女の子を米国で出産。ロサンゼルスの片田舎でバックヤードに鶏たちと豚のスイ、犬のトウフとともに自然に囲まれた生活を送る。母になったことをきっかけに食や環境の大切さを改めて感じ、できることからコツコツと、手作り調味料や発酵食品、スーパーフードやリビングフードを取り入れた食生活をメインに、食べるものは「できるだけ子どもと一緒に作る」「残さない」がモットー。2015年に「RUSTIC」を設立。日本で取得した調理師の知識や経験を生かして食のアドバイザー、ライフスタイルのコーディネーターとして活動。日米プロスポーツ選手やアクション映画俳優の身体作りのアドバイザー、みそ、お酢、漬け物など発酵食品作りの講師、創作料理のケータリングなど幅広い分野で活躍。
https://rusticfarmla.com/