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「とりあえず財形貯蓄」はNGな理由 手取り10万円台で貯蓄に向いているのは? 税理士が解説

公開日:  /  更新日:

著者:板倉 京

「とりあえず」で財形貯蓄していませんか?(写真はイメージ)【写真:写真AC】
「とりあえず」で財形貯蓄していませんか?(写真はイメージ)【写真:写真AC】

 手取り10万円台で将来が不安。少ない給与でも豊かに暮らし、貯蓄をしていくことはできるのでしょうか。豊富な実務経験のある税理士でマネージャーナリストの板倉京さんがお金の知識をレクチャーするこの連載。第5回は、向いていない貯蓄をしていないかを考えてみましょう。親世代からすすめられがちな財形貯蓄(通称、財形)を「とりあえず」やっていませんか?

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財形貯蓄をしているなら見直しが必要な場合も

 貯金をするために「とりあえず財形貯蓄をしています」という人は、意外に多いのではないでしょうか。というのも、最近「普通預金以外では会社の財形だけやっている」というキャリア女子に立て続けにあったのです。「今時、なんで財形なんてやっているの?」と聞くと、「親がせめて財形くらいやっておけというので……」との答えでした。

 それを聞いて納得。財形貯蓄が良かったのは、バブル時代の話なのです。

 財形貯蓄制度とは、国と会社が連携して従業員の資産形成を支援する制度で、1971年にスタートしました。財形貯蓄には「一般財形貯蓄」「財形年金貯蓄」「財形住宅貯蓄」の3種類があります。

 バブルの時代にはありがたい制度だった理由は、大きく4つあります。ひとつずつ見ていきましょう。

○毎月、一定額を天引きされるので自動的にお金が貯まる
 バブル世代が会社に入ったころは預金金利がとてつもなく高く、年利6%などという時代もありました。年利6%ということは、100万円預金すると利息は年間6万円。500万円預金すると30万円になります。つまり年利6%なら、貯金を12年間しているだけで残高が倍に。

 こんな時代であれば、毎月一定額を無理矢理、貯蓄してくれる財形貯蓄をしていれば、資産を増やすことができます。そのため、「とりあえず財形」はありだったわけです。

 しかし、今は空前の低金利。財形貯蓄をしても金利は0.01%。100万円預けても年間利息は100円。500万円で500円です。「とりあえず財形」に意味はないということです。しかも、手取り10万円台であれば引き落とし額も少なくなりがち。金利が少ない財形貯蓄より、つみたてNISAなど別の方法に目を向けたほうがいいでしょう。

○「年金」「住宅」型は、利子に対して税金がかからない(元金合計550万円まで)
 年利6%時代では、利息にかかる税金もバカになりませんでした。そのため、税の優遇措置がある財形貯蓄はありがたがられたのです。たとえば、上限元金550万円の利息が33万円だった場合、税金は20%の6万6000円です。この金額が非課税になるなら、うれしいですよね。

 ところが、今の金利では550万円預けても利息は550円。かかる税金は110円です。これが非課税になるといわれても……(笑)。メリットというほどの金額ではありませんよね。同じ非課税なら、配当や売買益が非課税になるNISA制度のほうが断然お得です。

○「住宅」型は特別の融資が利用できる
「住宅」型の財形は「財形持家転貸融資」という、なんだかありがたい感じの融資が受けられることもメリットといわれています。これはちょっとした優遇金利を受けられる制度です。バブル時代は、住宅ローンの金利が8%以上などという驚くような金利だったこともあったので、このような優遇金利の制度はありがたかったかもしれません。

 しかし、今は住宅ローンも超低金利で借りられる時代。しかも、ネット銀行やメガバンクの優遇金利のほうがこの制度の融資よりも低金利なことがありますので、この融資制度を利用する旨みは感じられません。そもそも、家を購入するかどうかを決めていない状況で、大事な手取りから財形住宅貯蓄をするという選択肢は考えられないですよね。

○引き出すには会社に申請が必要なため気軽にお金を使えない
 財形貯蓄を途中で解約するためには、会社に申請をする必要があります。申請してからお金が下りるまで1週間程度かかったり、解約手数料がかかったりすることもあります。

 バブル時代のように年利6%で運用が続くなら、財形貯蓄を続けることで資産を増やすことができますので、簡単にお金を引き出せないこともメリットだったかもしれません。しかし、今の財形貯蓄だと資産を増やすことはできませんから、簡単に下ろせないのはデメリットでしかありませんよね。

 このように、財形貯蓄はバブル時代にはありがたい制度でしたが、今はほとんどメリットがないのが実情です。ただし、会社によっては財形の積み立てに上乗せ給付をしてくれるところがあるので、その場合は上乗せ給付しだいで検討の余地はあるかもしれません。

 バブル時代に資産を築く場合のおすすめは財形だったかもしれませんが、今は断然、前回ご紹介したNISA制度を使ったつみたて投資がおすすめ。何も考えず「とりあえず財形貯蓄している」という方は、ここで一度見直しをしてみることをおすすめします。

(板倉 京)

板倉 京(いたくら・みやこ)

1966年10月19日、東京都生まれ。神奈川県内で育ち、成城大学文芸学部マスコミュニケーション学科卒。保険会社勤務後に結婚。29歳で税理士資格試験の受験を決意し、32歳で合格する。36歳での長男出産を経て、38歳で独立。主な得意分野は、相続、税金、不動産、保険。テレビでは「あさイチ」「首都圏ネットワーク」(ともにNHK)、「大下容子ワイド!スクランブル」(テレビ朝日系)、ラジオでは「生島ヒロシのおはよう一直線」(TBSラジオ)などに出演して解説。主な著書は「夫に読ませたくない相続の教科書」(文春新書)、「相続はつらいよ」(光文社知恵の森文庫)、「女性が税理士になって成功する法」(アニモ出版)、「知らないと大損する! 定年前後のお金の正解」(ダイヤモンド社)など多数。