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「下請法」では防げないトラブルに対応 「フリーランス新法」のメリットとは
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正社員、契約社員、パート・アルバイトのほかに「フリーランス」といった多様な働き方が増え、時代とともに仕事の環境は大きく変わってきました。そんななか、2023年4月に通称「フリーランス新法」と呼ばれる法案が可決成立。正式名称は「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律案(フリーランス・事業者間取引適正化等法案)」といいますが、この新法はどのような法律なのでしょうか。一般社団法人プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会代表理事の平田麻莉さんに詳しい話を伺いました。
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「フリーランス新法」が可決成立した背景
多様な働き方が広がるなかで、ひとつの選択肢としてフリーランスが注目されています。この働き方は、会社といった組織に所属せず、独立して企業などから業務を受注して働く形態を指します。独自のスタイルで仕事を行えるため、人によっては理想的な働き方であり、重要な選択肢のひとつです。なかには、会社員として働きながらフリーランスとして副業を行う人もいるなど、働き方の自由度は増しています。
編集者・ライター、デザイナー、カメラマンなどメディア業界は以前からフリーランスで働く人が多くいた業界ですが、近年では広報・PR、コンサルタント、人事や財務などほかの職種や業界でもフリーランスの選択が増え、柔軟な働き方が拡大しています。しかし、この働き方には問題も存在し、とりわけ顕著なのが「口約束」によるトラブルでした。
「フリーランスの場合、受注先は企業が多いのですが、仕事を受ける際、電話などの口約束が一般的です。その結果、業務内容や報酬面などで『言った、言わない』といった問題が起きることがあります。さらに、報酬未払いや受注先の経営状態の悪化による支払いの遅れ、減額いったこともフリーランスにとっては非常に深刻な問題でした」
こうしたトラブルを防ぐには、「取引条件の明示」が重要です。これまでも「下請法」(正式名称「下請代金支払遅延等防止法」)で明記されていましたが、一部において守られていなかった現状がありました。
実際に、フリーランスの編集者を対象に行われた2017年の調査によると、約3割が契約書を結んだ経験がなく、2018年の報酬未払いに関するアンケートでは約7割が「報酬未払いの経験がある」という結果が出たと平田さんは言います。
進化した「フリーランス新法」の中身とは
働き方が多様化するなかで、個人が受託業務を安定して行うためには、より適切な環境整備が必要とされています。そこで、「特定受託事業者に係る取引の適正化及び特定受託業務従事者の就業環境の整備を図る」という趣旨で、「フリーランス新法」が制定されました。
「我が国における働き方の多様化の進展に鑑み、個人が事業者として受託した業務に安定的に従事することができる環境を整備するため、特定受託事業者に係る取引の適正化及び特定受託業務従事者の就業環境の整備を図り、もって国民経済の健全な発展に寄与することを目的として、特定受託事業者に業務委託をする事業者について、特定受託事業者の給付の内容その他の事項の明示を義務付ける等の措置を講ずる」(「フリーランス新法」の趣旨)
「フリーランス新法」には「下請法」同様、契約書や発注書に加え、メールなどで取引条件を明示することを義務付けています。これにより口約束によるトラブルを防ぎ、受託業務の安定的な遂行を支援する狙いがあります。
さらに、これまでの「下請法」には取引条件の明示義務や60日以内の支払い義務など、いわゆる買い叩きや報酬の未払いを止めるよう明記されていますが、問題点は「資本金1000万以下の中小企業や零細企業は守らなくていいことだった」と平田さんは指摘します。そのため資本金の額に関係なく、取引の際には契約条件の明示を定めたところが、「フリーランス新法」の最大の特徴です。
フリーランスとは「企業に属さず独立した形態で、自分の知識やスキルを提供して対価を得ている人」だと平田さんは説明します。したがってフリーランスには、個人事業主や法人であっても従業員を持たないひとり社長、さらに副業として業務委託で働いている人も含まれる形です。フリーランスは、企業側から業務を委託されて仕事を行いますが、この「業務委託」の種類は「委任(準)契約」と「請負契約」の2種類。
「フリーランス新法」は、簡単に言えば「交わした約束はきちんと守りましょう」という内容ですが、対象となるのは「特定受託事業者」。法案の概要には「業務委託の相手方である事業者であって従業員を使用しないもの」と明記されています。つまり、フリーランスのなかでも従業員を雇うことなく、ひとりで仕事をしている個人事業主、ひとり社長、副業ワーカーが「フリーランス新法」の対象です。