Hint-Pot | ヒントポット ―くらしがきらめく ヒントのギフト―

仕事・人生

経営コンサルタントが移住促進担当として知った地方移住希望者のリアル 居住地による違いとは

公開日:  /  更新日:

著者:芳賀 宏

都内などでの移住相談会で希望者に説明する中平さん【写真:芳賀宏】
都内などでの移住相談会で希望者に説明する中平さん【写真:芳賀宏】

 長野県の東部に位置する立科町は、農業と観光を主な産業とする町ですが、ほかの地域と同様に人口減少が深刻な問題となっています。経営コンサルタントという本業を持つ一方、「地域おこし協力隊」として活動する中平次郎さん。町の重要施策と位置づけられる移住促進の担当として奔走し、残りの任期が1年を切りました。後編では、移住促進担当の相談活動から気づいた移住希望者の現状や課題、今後について伺いました。

 ◇ ◇ ◇

中高年だけではなく、20代も増えている地方移住の相談

 東京から立科町に移住した当初は心配だった凍てつく冬の寒さも、今ではその緊張感に心地良さを感じるほど慣れてきたと中平さんはいいます。暮らしの環境はガラリと変わり、「ゼロから田舎暮らしを楽しんで第二の故郷にしたい」という思いを強めているほどです。

 一方で、総合病院が遠いことやハンドルを握ることができなくなったときなど、将来に向けて考えなければいけない問題もあります。日々の体験を積み重ねながら、移住相談に訪れる方々には、実際に暮らす者としての本音を伝えています。

「協力隊」として活動したこれまでの約2年間で、中平さんが受けた移住相談は120件を超えました。移住を望む理由のほとんどが「豊かな自然のなかで田舎暮らしがしたい」というのは想像にかたくないでしょう。もちろん自らも移住者ですから、実際の暮らしや生活のしやすさ、逆に不便さや苦労する点なども偽りなく包み隠さず説明するのでリアリティがあります。

 多くの人と接するなかで気づいたことがありました。セカンドライフとして移住を希望する中高年が多いのはよく聞く話。ところが最近は若い世代、ことに20代の相談者が増えているそうです。

「自分から興味や関心のある分野へ飛び込んでいこうというキャリアチェンジや、『強み』をいかして地域社会に貢献したいという前向きな人が増えている」と分析しています。若い人たちの移住は立科町にはもちろん、長野県にとっても戦略的にぴったり。さらに増えてくれることを期待しています。

移住理由は希望者の居住地によって傾向がある

 移住相談者の大多数は、首都圏や京阪神に住んでいる人です。最近では、長野県の観光や移住情報を発信する長野県名古屋事務所の活動もあり、愛知県からの希望者も増えてきました。

 そうしたなかで興味深いのは、希望する理由に「住んでいる地域によって傾向」があることだと中平さんはいいます。

「東京都や神奈川県から来られる方は『災害が心配なので移住を考えている』という理由が多い。一方、埼玉県や群馬県ですと『暑さ』を理由にする方が目立ちます」

 当然、それだけが理由ではないでしょうが、昨今の環境変化を反映した傾向かもしれません。

立科町への希望者は増加 しかし最大の課題も

 ただ、2年間の活動で見えてきた最大の課題は「移住希望者はたくさんいるのに、提供できる住宅が少ないこと」と断言します。せっかく立科町に住みたいと希望して来てくれるだけに「心苦しい」と感じています。

「本当に多くの方が立科町を気に入ってくれます。しかし、現状ではいきなり物件を購入するのはハードルが高いと思います。賃貸が豊富な佐久市や上田市など、まずは近隣に住んでもらって立科町の住居をゆっくりと探す『二段階移住』も、選択肢としておすすめしています」

 加えて、多くの移住希望者に接して感じるのは、やはり人生の大きな決断なのでなかなか決断しきれない人が少なくないこと。それでも「最終的に主導権を握って決めるのは女性が多い印象です」と明かしてくれました。中平さん自身も思い立って立科町に行くことを即断した経験から、「移住はロジカルではなく、インスピレーションとご縁」と伝えているそうです。

 簡単に結論を出せないのは、誰しもが当然です。「移住する目的やビジョンが固まっているなら理想的です。もし迷っているなら、自分の気に入った土地に飛び込んでほしい。その後押しをできたら」と話します。