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仕事・人生

「売るところまでが仕事」 50代半ばで農家に転身 元市役所職員が試行錯誤の中つけた自信

公開日:  /  更新日:

著者:芳賀 宏

これからが勝負 リンゴ農家の収益化のために試行錯誤中

 とはいえ、ジュースは利益率が必ずしも高くはありません。もちろん、目指すべきは生食のリンゴをしっかりと売って生計を立てていくことです。

 着任1年目だった一昨年は遅霜で不作でしたが、今年はそれ以上に深刻な状況に見舞われています。3月末から4月にかけての気温が高く、通常より10日ほど早くリンゴが開花。4月下旬に、寒の戻りによる遅霜と長時間の低温で多くの花が落ちてしまいました。加えて前年に豊作だったことの反動や、遅くまで実を残したままにした影響で木が弱り、芽が少ないなどの不運も重なって「もしかしたら昨年の2割程度しかできないかもしれない」と覚悟しています。

 果樹農家の売り上げが確定するのは、おおよその販売が終了する年明け。「不安です」と正直な心境を打ち明けます。それ以外にも、リンゴに多い腐乱病との闘い、植え替え時期の見極めと品種選び、来年以降に心配される送料の値上げ……など、駆け出し農家には次々と試練や課題が待ち受けています。

 それでも、「自然が相手やから仕方ないこともある。農業が大変なのはわかっていてこの町に来たつもりやし、これもいい経験と思ってやるだけ」と芳野さん。大阪に残した家族のためにも前を向きます。

 快く送り出してくれた配偶者からは、「頑張ってもらわな困るよ!」と発破をかけられるそうです。当初は「なんで市役所を辞めるの?」と心配していた長男も、大学生になった今では「うちの親父、長野でリンゴ作ってんねん」と周囲に胸を張り、アルバイト先でリンゴジュースを売って父親を手助けしています。

 リンゴ農家として失敗も悩みもあった厳しい状況、そして収穫の喜びにも遭遇してきたこの2年間はすべてが財産。本格的な農家としてはこれからが勝負です。

「町の人や知り合った先輩農家の方、新規就農の仲間、研修させてもらった組合などたくさんの人に助けられて、なんとなく方向性は見えてきた気がします」

 まだ第一歩を踏み出したばかり。でも、少しずつ自信をつけています。

(芳賀 宏)

芳賀 宏(はが・ひろし)

千葉県出身。都内の大学卒業後、1991年に産経新聞社へ入社。産経新聞、サンケイスポーツ、夕刊フジなど社内の媒体を渡り歩き、オウム真理教事件や警視庁捜査一課などの事件取材をはじめ、プロ野球、サッカー、ラグビーなどスポーツ取材に長く従事。2019年、28年間務めた産経新聞社を早期退職。プロ野球を統括する日本野球機構(NPB)で広報を担当したのち、2021年5月から「地域おこし協力隊」として長野県立科町に移住した。