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子どもとの食器共有、ナーバスにならないで 日本口腔衛生学会の真意 「親からの口腔細菌感染は食器の共有の前から」

公開日:  /  更新日:

著者:Hint-Pot編集部/クロスメディアチーム

生後半年で離乳食が始まる(写真はイメージ)【写真:写真AC】
生後半年で離乳食が始まる(写真はイメージ)【写真:写真AC】

 親の虫歯菌は唾液を介して子どもにうつるのでしょうか? そんな気になる問いに、日本口腔衛生学会の出した“答え”が注目を集めています。赤ちゃんや乳幼児に虫歯菌をうつさないため、箸などの食器の共有や過度なスキンシップを控えている親も多いかもしれません。しかし、学会が出した見解は意外なものでした。担当者に詳しく聞きました。

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「乳幼児期における親との食器共有について」 リリースを出した真意

 話題になったのは、8月31日に公式サイト上に発表した「乳幼児期における親との食器共有について」という題の情報発信です。

 箸やスプーンなどの共有で、親の虫歯菌が子どもにうつると考えがちですが、「親からの口腔細菌感染は食器の共有の前から起こっている」と指摘。

「最近の研究で、生後4か月に母親の口腔細菌が子どもに伝播していることが確認されています。食器の共有は離乳食開始時期の生後5~6か月頃から始まりますが、それ以前から親から子どもに口腔細菌は感染しているのです。日々の親子のスキンシップを通して子どもは親の唾液に接触しますので、食器の共有を避けるなどの方法で口腔細菌の感染を防ぐことを気にしすぎる必要はありません」と、結論づけています。

 生後4か月といえば、まだ歯も生えておらず、母乳やミルクしか飲めない時期です。感染のきっかけは、赤ちゃんへの声がけやキスなどの愛情表現ということになります。唾液を介しての虫歯菌の感染を気にする親はほとんどいない時期と思われるだけに、自然な感染と言ってもいいでしょう。

 虫歯の原因となる細菌はミュータンス菌など複数ありますが、唾液の中に含まれる細菌はもともとごく少量だそうです。

「唾液では、他の常在細菌に比べて虫歯の関連細菌が占める割合は低く、その細菌の量はごくわずかであることが分かっています」

 それゆえ、食器の共有などで子どもに虫歯がうつるリスクを過大に捉える必要がないというのが学会の説明する理由です。

「親のミュータンス菌が子どもに感染することは多くの研究で支持されており、現在も変わりません。そのため、『親と子との食器の共有を避けるように』という情報が日本では出ていました。ところが、『気を付けていれば感染が予防でき、むし歯は減るかどうか』には十分な研究がありませんでした。むし歯予防のエビデンスという観点ではここが大事になります。いくら基礎的なメカニズムを支持する研究が存在したとしても、実際の人の病気の予防や発生に関係するかどうかは、人の病気の発生に関する研究が重要になります」と訴えます。

 親としては、「もし虫歯がうつったらどうしよう…」と生活の中で、日々工夫をしているのかもしれません。しかし、それは科学的根拠に基づいているわけではありません。

「人の病気の発生に関する研究としては、日本における約3000人の3歳児の横断研究で、親が感染を気をつけていることと子どものう蝕に統計学的な関係が見られませんでした。この研究では、感染を気をつけている親は、他の行動も良い可能性が高いことを考慮して分析をしています。海外では、感染することは認識されていますが、『親と子との食器の共有を避けるように』という情報発信はあまりされていないようです」と続けました。

「なぜ、関係が見られなかったのか、これについては今回の文章にありますように、細菌感染の時期や原因菌が複数であることなどが理由として考えられます」と、虫歯にはさまざまな可能性があることを挙げました。