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路線の約7割がトンネル 逆転の発想で真っ暗な車内をシアターにしたローカル鉄道 試み始めたワケ
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電車は、私たちの生活の中で移動手段として欠かせない乗り物です。しかし、人口減少が続く地方地域では利用客の減少により経営が難しくなっている路線もあります。そんななか、一風変わった企画電車を走らせることで利用客に話題になっているのが、新潟県のほくほく線「ゆめぞら」です。誕生のきっかけや人気の秘密について、運行する北越急行株式会社の営業企画課の村山正樹さんに伺いました。
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トンネル多めの路線を逆転の発想でアピールポイントに
ほくほく線とは、新潟県の六日町(むいかまち)駅から日本海側にある犀潟(さいがた)駅まで、山から海へ向かうローカル鉄道です。地域に住む人々の移動手段として開業したのは1997年3月。冬になると豪雪地帯を走る路線で、今年で26年になります。
しかし、この「ほくほく線」にはマイナス面がありました。四季折々の風景を楽しめる車窓からの美しい眺めが売りにもかかわらず、営業区間全約59.5キロのうち、約70%に相当する約40.3キロの区間がトンネルだといいます。
「一般的には車窓からの風景を楽しむことが鉄道の魅力だと思うんですが、ほくほく線は路線の約7割がトンネル区間なので車窓からの景色が見えないんです。もちろん田園地域ですので、トンネル以外のところでは四季折々のきれいな風景を楽しむことができますが、トンネル内では楽しむことができないんです」
そこで、車窓からの風景に代わる「何か」を見てほしいとの思いから、トンネル内を通過する際の暗さを、ほくほく線の魅力として活用することを発案。電車内に「何か」を映し出すシアタートレインの開発が始まります。
2002年に「ほしぞら」が誕生。電車内の天井に特殊な塗料を使い、ブラックライトを当てると星座が浮かび上がる内装を施しました。車窓からの景色が見えないトンネル内では、乗客が星座を楽しむ電車に“変身”。それまでになかった新しい取り組みは大きな話題になりました。
「初めての試みでもあったので、お客様からも『非常に楽しい』と大変好評をいただきました。ただ、この『ほしぞら』は天井に映す、いわゆる静止画のようなものでしたので、これをもっと臨場感のある動画で見せたら楽しいのではないかという気持ちが生まれました」
ちょうどこのあと、新しい車両を導入するという計画があったことから、天井に映し出す動画を作ろうという話に。そして翌年、「ほしぞら」の“進化系”ともいえる「ゆめぞら」が誕生しました。
「ゆめぞら」で上映される5つのコンテンツとは
ほくほく線には5つの長いトンネル区間があります。魚沼丘陵駅~しんざ駅」(赤倉トンネル)、「十日町駅~まつだい駅」(薬師峠トンネル)、「まつだい駅~ほくほく大島駅」(鍋立山トンネル)、「ほくほく大島駅~虫川大杉駅」(深沢・霧ヶ岳トンネル)、「うらがわら駅~大池いこいの森駅」(第1・第2飯室トンネル)です。「ゆめぞら」では、そのトンネル区間ごとに違うコンテンツが映し出されています。
「コンテンツは5つあります。『ほしぞら』を踏襲した形が夜空を映した『星座編』、夜空に打ち上げた『花火編』、四季を感じられる風景を空に映し出した『天空編』、水族館の大きな水槽を下から眺めているような感覚の『海中編』、そして宇宙にいるような映像を楽しむ『宇宙編』です。実はそれぞれのコンテンツで、5つのパターンがあるんです」
利用客を飽きさせないための工夫として、ひとつのコンテンツに5つのパターンを作成。映像は全部で25種類あるそうです。一定期間ごとに、パターンを変更しながら上映することで、マンネリすることなく、一年中楽しめるようになっています。もちろん映像の長さも、トンネルの長さに合わせ、通過する絶妙なタイミングで見られるように作られているとか。
一般的にトンネルの中では、車内は真っ暗。電車の走行音が車内に反響して音も遮られ、本を読むことも、話すことも難しくなります。そのため、トンネル通過中の車内では「退屈にされている人が多かったのではないか」と話す村山さん。しかし、「ほしぞら」「ゆめぞら」が誕生したことによって、車内での乗客の楽しみ方が増えたようです。
「『ゆめぞら』では車両の天井の端から端まで、音楽に合わせてダイナミックに絵が動きます。その臨場感がお客様から好評をいただいており、乗客のみなさんも上映をとても楽しまれているようです。実際に訪れる観光客の数も、問い合わせの数も増えましたし、団体のお客様から『自分たちが乗る列車でも上映してもらえないか』というような相談も増えました」