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新しい命に触れた「七面鳥の孵化」 米国在住ナチュラリストが子どもたちと体験した28日間の奇跡
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米ロサンゼルスの片隅にある小さな平屋で暮らしている、ナチュラリスト・小田島勢子さん。裏庭で飼育するニワトリや、自然の恵みを大切にしています。この秋、新たな挑戦をしたという小田島さん。七面鳥を迎えるため、人工孵化を行いました。卵の殻越しに見える、命の神秘に感銘を受けたといいます。
◇ ◇ ◇
動物によって異なる妊娠期間
ヒトと牛は280
ゾウは650
キリンは460
ライオンは110
犬は65
ネズミは20
この数字はそれぞれの動物たちの平均的な妊娠日数です。一概には言えませんが、これを見ると大きな個体であるほどに、そして一度に出産する子の数が少ないほどに、妊娠の日数が長い傾向であることがうかがえます。
ゾウに至っては2年弱の妊娠期間となり、約9か月の妊娠でもまだかまだかと過ごしていた私からすると、同じ母として尊敬しかありません(比べるものではないのですが)。また、ハツカネズミの名前の由来もここからだと、初めて知りました。
七面鳥の人工的な孵化に挑戦
10月、我が家に2羽の命が誕生しました。家庭農場で馬をはじめたくさんの動物たちと生活をする友人から、9月の初旬に七面鳥の卵と孵卵器を借りて、卵から生まれてくる雛の様子を毎日観察。子どもたちと命の誕生を体験することになりました。今回、私たち家族には七面鳥を新たな家族のメンバーとして迎えたいという希望があり、有精卵の可能性のある卵6つを孵化器の中で育てることに。
我が家で雛が誕生すること自体は、これが初めてではありません。「Mrs.クラウド」と名付けた烏骨鶏が2年前に、日本チャボの卵を温めて自然孵化をしたことがあります。このときも前述の家庭農場の友人からいくつか有精卵を分けてもらいました。今回は初めて孵卵器を使い、私たち人間の手で卵から雛の誕生をサポートするということで、専門家による卵を孵化させるまでのお話や本で子どもたちと学ぶことに。
卵が孵化する平均日数は鳥の種類によって異なり、ウズラは17日、ニワトリは21日、アヒルは26日、七面鳥は28日、ダチョウは40日と、個体が大きくなればなるほど孵化までの時間も長くなる傾向にあるようです。また、生まれるまでの間に卵を保温するだけでなく、少しずつ回転させたり保湿したりすること、生まれる最後の数日は「ロックダウン」といって孵化しやすい環境に条件を整えてあげる必要があることなど、親鳥が自然としていることを改めて学ぶ機会になったのです。なるほど! と思うような知らない情報がたくさんありました。
卵の中で育っていく雛の姿は、哺乳類の子宮で胎児が育つ様子ととても似ています。小さな心臓が動き出し、卵の中で体の部位が形成され大きくなってくる様子、そして、卵の殻の内側に縦横無尽に張りめぐらされた血管と雛のお腹がつながっている姿は、まるで母体と赤ちゃんをつなぐへその緒のようです。殻を割って生まれてくるときは、臍帯のようなパイプでつながっている様子を間近で見ることができました。
卵を孵卵器にそっと入れたのが9月5日のこと。保温設定37.5度(ニワトリよりも少し高めの温度設定です)、湿度約60%。ここから1週間ほど経った頃に、「キャンドリング」といって、暗い場所で卵に光を当てて命が宿っているか否か(有精卵かそうでないかを含め)を調べます。このときに、小さな黒い点があるのが心臓。元気の良い子はすでに踊るように動いています。この時点で命が宿っているのが確認できたのは、卵6個中3つでした。
孵卵器に入れて約15日目の折り返し地点、2度目のキャンドリングを行います。ここまでくると、順調な卵は黒い点だった部分が大きく成長。この時点で、3つ残っていた卵のうち1つの成長が止まり、中止卵になりました。この時点で命が継続ができたのは6個あった卵のうちの2つ。その2つの卵は、孵化予定日の3日前からロックダウンを始めました。保温設定を少しだけ下げて約37度、湿度は上げて70%を保ち、今まで1日数回転がしていた卵を動かすことなく置いておきます。