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新しい命に触れた「七面鳥の孵化」 米国在住ナチュラリストが子どもたちと体験した28日間の奇跡
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なかなか誕生しない雛たち
予定日を1日過ぎた29日目。ひとつの卵にヒビが入りました。中からくちばしでつついて卵を少しずつ割っていきます。我が家の雛はおっとりさん。約7~12時間ほどで卵を割り出てくるところを、1羽目は24時間かけて自力で誕生しました。そして、もうひとつの卵も、割れていないもののコトコトと動いています。生まれたばかりの雛は全身濡れた状態で、渾身の力を使い果たしたようにぐったりと、けれど母親を呼ぶようにピーピーと鳴き声を上げました。生まれて2日ほどはお腹に栄養を蓄えているので、食事を取る必要はないといわれています。
もう一羽がちゃんと生まれてくるか、子どもたちと交代制で見守りました。卵から自分の力でこの世界へ出てくることは、雛にとって人生(鳥生)初の力仕事。ここで力尽きる子もたくさんおり、卵の中で亡くなることを「死ごもり」と呼びます。
ヒビが入ってから36時間経過。もう生まれてこないかもと覚悟し、孵卵器から卵を出し小さな穴を覗くと、しっかりと息をしてピーピーと鳴く雛の存在が。殻が硬く、時間も経っているため、自ら割る力も弱くなっているようで、少しだけサポートすることを決めました。
無事にマユゲとオカユが誕生!
外気に当たって卵の温度や湿度が下がると、殻が硬くなったり、雛が弱ったりしてしまうので、温かいタオルの中で温水の霧吹きをしながら、ゆっくりとピンセットでくちばしのあたりの殻を割り除いていきます。このときは、必ず少しずつ。卵の内側は毛細血管が張りめぐらされ、雛の体に送るための酸素や栄養素を循環させる命綱になっています。とくに雛のお腹のあたりは卵と最後まで密着していて、そこを無理なタイミングではがしてしまうと大量出血で雛が死んでしまうからです。
本来は時間をかけて雛のタイミングで出てくるのが一番ですが、孵化が始まってすでに丸一日半を超えているため、応急処置として手助けすることにしました。殻は血管が渇いている部分のみ取り除き、あとはたっぷり保湿して孵化器に戻し見守ります。そこから数時間。ようやく自分の力で卵から出てくることができました。
そして雛は、体の毛が乾いてしまうまで孵卵器に滞在後、娘たちの温かなトレーナーのポケットの中で、この下界で初めての音や風を感じていました。こうして2羽の七面鳥が我が家のメンバーに新たに加わり、「マユゲ」と「オカユ」と命名。今もすくすくと成長中です。
(小田島 勢子)
小田島 勢子(おだしま・せいこ)
ナチュラリスト。結婚を機に2004年に南カリフォルニア州へ移住し、3人の女の子を米国で出産。ロサンゼルスの片田舎でバックヤードに鶏たちと豚のスイ、犬のトウフとともに自然に囲まれた生活を送る。母になったことをきっかけに食や環境の大切さを改めて感じ、できることからコツコツと、手作り調味料や発酵食品、スーパーフードやリビングフードを取り入れた食生活をメインに、食べるものは「できるだけ子どもと一緒に作る」「残さない」がモットー。2015年に「RUSTIC」を設立。日本で取得した調理師の知識や経験を生かして食のアドバイザー、ライフスタイルのコーディネーターとして活動。日米プロスポーツ選手やアクション映画俳優の身体作りのアドバイザー、みそ、お酢、漬け物など発酵食品作りの講師、創作料理のケータリングなど幅広い分野で活躍。
https://rusticfarmla.com/