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仕事・人生

世界をめぐる旅から島めぐりへ 元書籍編集者が旅を通して得た自身の変化とは

公開日:  /  更新日:

著者:Hint-Pot編集部・出口 夏奈子

猫好きでもある小林希さんは、離島を旅してめぐるなかで猫の写真も撮影【写真提供:小林希】
猫好きでもある小林希さんは、離島を旅してめぐるなかで猫の写真も撮影【写真提供:小林希】

 2021年に船の御朱印である「御船印」を立ち上げ、御船印めぐりプロジェクト事務局の代表も務める小林希さん。世界中を旅し、これまでにおよそ150の日本の離島を訪れてきました。その際、離島が持つ素晴らしい文化や自然景観、独自のコミュニティのあり方などに感動し、一方で高齢化・人口減少による課題も知ることに。課題解決に向き合う「島プロジェクト」を立ち上げ、それ以降、離島に関わる日々を送っています。さまざまな分野で活躍する女性たちにスポットを当て、その人生を紐解く連載「私のビハインドストーリー」。小林さんが旅に出る理由について聞いた前編に続き、後編では世界旅行を終えて訪れた瀬戸内海の島旅について伺いました。

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ワクワク感を胸に出かけた世界をめぐる旅

 新卒で入社した株式会社サイバーエージェントを退職したのは、2011年の暮れ。「卒業」という言葉を使う小林さんにとって、退職は悲しい別れではありませんでした。

「アメーバブックスって編集部の人数が少ないこともあって、家族のように仲が良かったんです。この人たちとは生涯かけてつきあっていくんだろうなって感じていたので、退職で関係が終わるとはまったく思っていなくて。卒業と同じ感じだったので、もちろん寂しさはありましたけど、『世界を見に行くんだ!』というワクワク感のほうが大きかったですね」

 期限を決めていない旅で、「お金が底をついたら帰国しよう」くらいにしか考えていなかったそうです。

 どうしても訪れたかったのは、社会人になって初めて同期と訪れたチュニジア。しかし、当時は情勢不安で渡航できず、「先にアジアを3か月間回って、ヨーロッパに移動して、3か月後にようやくチュニジアに入った」といいます。

「最初の3か月はひたすらアジア諸国を動き回りました。東南アジアやインドも含めて相当な速さで回ったので、本当に死にそうなくらい慌ただしかったかと思います。その後、マレーシアからフランスに入ったんですが、フランスだけは暮らすように旅したいなと思ったので、ホームステイして語学学校に通うなどしていました」

 1か月ほどフランスに滞在したあとは、ヨーロッパ諸国を2か月かけて回り、イタリアのナポリからチュニジアに入ったといいます。

「チュニジアでは以前、旅したときに仲良くなった女の子と連絡を取っていたので空港まで迎えに来てもらって、最初の1か月は一緒に暮らしました。次の1か月は首都チュニスでアパートを借りて、最後の1か月はチュニジア中を旅して回りました」

アートと猫を求めて瀬戸内海の島めぐりへ 思いがけず始めた活動とは

 2013年1月、親友の結婚式に出席するために帰国。世界を旅したうちアジア3か月の旅を1冊の本にまとめて出版します。日本でアルバイトを少ししたのち、今度は4か月ほど東方へ、その後はまた3か月の南米の旅へ。気がつけば、2014年になっていました。

 国内に目を向けてみると、全国を旅している割には、日本の離島にほとんど行ったことがないことに気づいたといいます。2010年に始まった瀬戸内国際芸術祭の情報に触れるたびに「すごく気になっていた」そうで、さらに、世界各地で猫好きで猫の写真を撮っていた小林さんは「日本の島に住む猫の写真も撮りたい」と、瀬戸内の島々への思いを募らせていったといいます。

 訪れたのは、高見島、佐柳島、牛島、讃岐広島、小手島、手島、直島、豊島、犬島。そのなかのひとつ、香川県の離島・讃岐広島を訪れたとき、たまたま島に暮らす人たちと話す機会に恵まれました。

「島民にとって船は重要な足であり、船の便数を減らさないためにもっと人が船を利用しないといけないことを知りました。そのためには、たくさんの人に島に来てもらうようなことを考えないといけないけど、どうしていいかわからない……と」

 話を聞くなかで、「何もしなければ10年後には無人島になる」と知った小林さん。讃岐広島には宿も食事処もありませんでしたが、人口減少に伴う空き家が多く残っていました。そこで、「空き家を再生して、宿を作るところから始めますか」という提案をして、島民たちと一緒に空き家を再生する「島プロジェクト」が始まります。

「島でしかできない体験を、都会の子どもたちや日常に忙殺された大人たちに楽しんでもらいたい」

 関わった人すべてが「どうにかしたい」という思いだけで活動した日々は、「いろんな意味で刺激的だった」と振り返ります。約2年の歳月をかけてできあがったのが、「ゲストハウス ひるねこ」。この名前には、「ぽかぽか縁側でお昼寝したくなるような、癒やしの場所であってほしい」という願いが込められているといいます。

 古民家を再生するだけでなく、敷地内には宿泊者用の畑「ひるねこ農園」を作り、自由に食材を育てて利用できるようにしたそうです。