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48歳の子なし専業主婦 夫の他界で直面した遺産相続問題とは 税理士が解説
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少子高齢化が進むなか、子どもがいない夫婦も増加傾向にあるといわれています。子どもがおらず、どちらかが亡くなった場合、誰が遺産を相続することになるかご存じですか? 遺言書を用意していないと、後悔する場合も。豊富な実務経験がある税理士で、マネージャーナリストの板倉京さんが解説します。
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夫が亡くなりお金を下ろそうとするも…
「夫が亡くなったので銀行へ手続きに行ったところ、夫のきょうだいと財産の分け方を決めないと、基本的に預金全額を動かすことはできないと言われました……」
今回の相談者は、夫を亡くしたばかりの専業主婦・秀美さん(48歳・仮名)。夫婦の間には子どもがいませんでした。夫の父母は、秀美さんが結婚してまもなく他界。しかし、夫には兄と姉がいました。
「ふたりとも北海道に住んでいて、顔を合わせたことも数えるくらいしかないんです。お葬式で顔を合わせたときも、なんだかよそよそしくて、お金の話なんて連絡しにくいです。なんとか義兄と義姉に頼まないで預金を下ろす方法はありませんか?」
そう質問されましたが、秀美さんのような状況の場合、残念ながら義理のきょうだいに黙って夫の口座を動かすことはできません。ちなみに、不動産の名義も、証券会社の口座でさえ、ほかの相続人に内緒で動かすことなんてできないのです。
民法で定められている法定相続人とは
このように、子どものいないご夫婦の相続では大変な思いをする可能性大です。というのも、どちらかが亡くなった場合、遺産をもらえる権利があるのは配偶者だけではないからなのです。
亡くなった人の配偶者は必ず相続人になると定められていますが、それ以外にも、民法によって相続人になれる人が法律で決められています(法定相続人)。
第一順位は「子」、子がいない場合は第二順位の「親」。第二順位がいない場合は、第三順位の「兄弟姉妹」です。第一順位から第三順位のうちに順位の高い人がいる場合、順位が低い人は遺産を相続することができません。
そうなると、第一順位の子どもがおらず、第二順位の両親も亡くしている秀美さんの夫の相続人は、妻である秀美さんと夫のきょうだいということになるのです。「夫の口座を妻が自由にできないなんて、そんなことってあるの?」と思われるかもしれません。しかし、本当にそうなのです。
遺産分割協議前に預金が下せる「預貯金払戻し制度」
ですから、基本的に誰がその預金を相続するのか決まってからでないと、預金を動かすことは認められないわけです。遺産分割が決まらない場合でも、相続人全員の同意を得ることで口座を動かすことができる可能性もあります。ただし、あくまでも相続人全員の同意があったうえでのこと。「ほかの相続人には内緒で」ということはできないのです。
現在は、一定額以内であれば、遺産分割協議前でもほかの相続人の同意なしで預金を下ろせる「預貯金の払い戻し制度」が創設されています。とはいえ、被相続人が残した預貯金のうち、ひとつの金融機関から下ろせるのはその相続人の法定相続分の1/3まで(上限150万円)とされています。
例:ひとつの金融機関に残された秀美さんの夫の預貯金が400万円だった場合
預貯金400万円×法定相続分(妻なので3/4)×1/3=100万円
このように、遺産相続の前にすべての預金を下ろすことはできません。秀美さんに自分の預金はほとんどなく、夫の口座から生活費を出していたとのこと。このままでは、生活費も捻出できません。