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48歳の子なし専業主婦 夫の他界で直面した遺産相続問題とは 税理士が解説
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夫のきょうだいに連絡したところ「ちゃんと遺産分けしてほしい」
結局、秀美さんは義兄と義姉に連絡をして、銀行の手続きをお願いしたそうですが、そのときに「弟の財産は、きょうだいである自分たちにももらう権利があるんだから、ちゃんと遺産分けしてほしい」と言われてしまったといいます。
確かに、夫の残した財産の1/4は、兄弟姉妹に法定相続が認められています。秀美さんの夫の財産は、時価3600万円のマンションと預金1200万円の合計4800万円。そのうちの1200万円は、義兄と義姉に権利があるということです。
仮に、1200万円を現金で夫のきょうだいに渡してしまうと、秀美さんにはマンションだけが残り、現預金がなくなってしまいます。かといって、マンションの権利を一部(1200万円分)、きょうだいへ渡すわけにもいきません。
さすがにきょうだいも秀美さんを不憫に思ったのか、話し合いの結果、預金をそれぞれ300万円ずつ(計600万円)相続することに。ほかはすべて、秀美さんが相続することになりました。
ちなみに、夫は死亡時に現役のサラリーマンだったため、1000万円の退職金が出ました。また、受取人が秀美さんになっている1000万円の生命保険もあったといいます。退職金や生命保険は民法上、相続財産とはならず、受取人固有の財産となり、これらは秀美さんが受け取ることができました。
結果、秀美さんはマンションと600万円を相続。退職金、生命保険を合わせて、2600万円の現預金を手にしました。
秀美さんは現在48歳ですから、平均余命は40.06年(厚生労働省 2022(令和4)年調べ)。2600万円で約40年間を過ごさなければならないなんて……。年金があったとしても心もとないですよね。せめて、夫が残した財産をすべて相続できていれば……。
子どもがいない夫婦はとくに遺言書が必要
みなさん、この話を聞いてどう思いましたか。亡くなった夫の財産は秀美さんと力を合わせて築き上げられたものなのに、めったに顔を合わせたこともないきょうだいに渡すなんてあり得ない! と思うかもしれません。
でも、法律はこうなっているのです。しかも今回のケースでは、義兄と義姉は法定相続分すべてを渡すように主張しませんでしたが、なかには「もらえるものは全部もらう!」という人も本当にいるのです。その金額を決める話し合いは、想像するだけでもつらいですよね……。
大事な妻(夫)にこんな思いをさせないためにも、ぜひ遺言書を作っていただきたいと思います。兄弟姉妹には、遺留分(遺言書があっても守られる相続分)がありません。
秀美さんの夫が「全財産を秀美さんに相続させる」という遺言書を残してくれていれば、財産はすべて秀美さんのものになったのです。その場合、銀行の手続きも、不動産の名義変更も、すべて秀美さんひとりで行うことができました。夫の財産のことで、義理のきょうだいと連絡を取る必要もなかったのです。
遺言書は相続対策としてとても有効なツールですが、とくに子どものいないご夫婦は、大事な妻(夫)を守るためにぜひ残していただきたいと思います。
(板倉 京)
板倉 京(いたくら・みやこ)
1966年10月19日、東京都生まれ。神奈川県内で育ち、成城大学文芸学部マスコミュニケーション学科卒。保険会社勤務後に結婚。29歳で税理士資格試験の受験を決意し、32歳で合格する。36歳での長男出産を経て、38歳で独立。主な得意分野は、相続、税金、不動産、保険。テレビでは「あさイチ」「首都圏ネットワーク」(ともにNHK)、「大下容子ワイド!スクランブル」(テレビ朝日系)、ラジオでは「生島ヒロシのおはよう一直線」(TBSラジオ)などに出演して解説。主な著書は「夫に読ませたくない相続の教科書」(文春新書)、「相続はつらいよ」(光文社知恵の森文庫)、「女性が税理士になって成功する法」(アニモ出版)、「知らないと大損する! 定年前後のお金の正解」(ダイヤモンド社)など多数。