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未成年の子どもがいる家こそ遺言書を用意すべき理由 相続人は誰にすればいい? 税理士が解説

公開日:  /  更新日:

著者:板倉 京

未成年と遺産分割協議をする場合は、特別代理人を家庭裁判所に承認してもらう必要がある(写真はイメージ)【写真:写真AC】
未成年と遺産分割協議をする場合は、特別代理人を家庭裁判所に承認してもらう必要がある(写真はイメージ)【写真:写真AC】

特別代理人選任は未成年の子の権利を守るため

 では、特別代理人はどう決めればいいのでしょうか。もちろん、家族関係のデリケートな話し合いに加わってもらうのですから、そのあたりにいる人に適当に頼むわけにはいきません。

 知人や親戚など、信用できる人にお願いをするケースが多いですが、そういった人がいない場合は弁護士などに依頼する人もいます。特別代理人を頼む人を決めたら、家庭裁判所に申し立てをして、その人を特別代理人として承認してもらう必要があります。

 申請するときには、どのように遺産分割をするのかの案も一緒に提出する決まりになっています。ここまで聞いて「なんて大変なんだ!」と思った人もいるでしょう。大変なのはこれからです。

 特別代理人を選任するのは、未成年の子の権利を守るためです。ですから、相続財産を「母親が全部相続する」ことは、基本的には認められません。原則として、法定相続分程度は子どもに相続させなければいけないということになります。

鈴木さんのケースでは相続税が365万円に

 鈴木さんの相続でいえば、遺産総額は1億円なので、妻である美保さんがすべて相続すれば相続税はかかりません。しかし、家庭裁判所は「それはダメ!」というのです。

 仮に、このケースで家庭裁判所推奨の法定相続分通りに遺産分割をすると、相続税は365万円になります。「母親が全部もらったって、子どものために使うはずだから、相続税がかからないようにするのが子どものためにもいいのでは?」と思うのですが、その意見が通る見込みは低いのです。

 こうして鈴木さんの家族は、泣く泣く相続税を納めることになってしまいました。

 隆さんが遺言書を残してくれていたら……と悔やまれてなりません。ちゃんとした遺言書があれば、その通りに財産を分ければいいのですから、遺産分割協議をしなくていいのです。つまり、特別代理人もいりません。

 もし「妻にすべてを相続させる」という遺言書を残してくれていれば、妻の美保さんがすべて相続して、相続税はゼロで済みました。また、仮に相続税がかからなかったとしても、子どもとの遺産分割協議に第三者を介在させるというのは、できれば避けたいところです。

「まだまだ若いから相続なんて……」と思うかもしれませんが、いつ何が起こるのかは誰にもわかりません。私も、息子が未成年のうちはと、夫とお互いに「自分の財産はすべて妻(夫)に相続させる」という遺言書を書き合いました。もちろん、家庭ごとにさまざまな事情がありますので、遺言書の内容は相談しつつ決めるとしても、未成年のお子さんがいる家庭はぜひ遺言書を用意していただきたいと思います。

(板倉 京)

板倉 京(いたくら・みやこ)

1966年10月19日、東京都生まれ。神奈川県内で育ち、成城大学文芸学部マスコミュニケーション学科卒。保険会社勤務後に結婚。29歳で税理士資格試験の受験を決意し、32歳で合格する。36歳での長男出産を経て、38歳で独立。主な得意分野は、相続、税金、不動産、保険。テレビでは「あさイチ」「首都圏ネットワーク」(ともにNHK)、「大下容子ワイド!スクランブル」(テレビ朝日系)、ラジオでは「生島ヒロシのおはよう一直線」(TBSラジオ)などに出演して解説。主な著書は「夫に読ませたくない相続の教科書」(文春新書)、「相続はつらいよ」(光文社知恵の森文庫)、「女性が税理士になって成功する法」(アニモ出版)、「知らないと大損する! 定年前後のお金の正解」(ダイヤモンド社)など多数。