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めぐる命とめぐる思い 米在住ナチュラリストが考える「命をいただく」ということ

公開日:  /  更新日:

著者:小田島 勢子

鶏の命を絶つという行為は体力以上に心のエネルギーを使うことも

家庭農場の主であり、ホームステッドエデュケーターのギルバート【写真:小田島勢子】
家庭農場の主であり、ホームステッドエデュケーターのギルバート【写真:小田島勢子】

 開催当日、会場となった親友の家庭農場に希望した親子が集まりました。鶏、豚、七面鳥にたくさんのフルーツの木々など、命あふれるこの場を楽しむことを目的に来る人。鶏のさばき方を習いたい人、鶏を絞める場を体験したい人、そして実際に鶏を絞める経験を心に決めてきた人もいました。

 それぞれが自身の思いを胸に、決して無理はせず、心地良くできるところまでの参加となりました。

 このなかで深く印象に残った光景があります。2人の子ども連れた母親が、鶏を絞めてさばく姿です。1歳の子どもをおんぶし、6歳の娘さんと会話をしながらさばくその様子からは、たくましさを感じました。

 また、自ら名乗り出て鶏を絞めた11歳の女の子もいました。彼女の母親も、娘さんの勇姿と意思を受け、鶏を絞めてさばく場面も。イベント後には、女の子とお母さんから感想もいただきました。

 お母さんは「いただいた鶏肉でスープを作り、水足ししながら、最後は鶏ガラスープラーメンを作り、完食しました。こんなに大切に骨まで愛しく、おいしくいただけたのは、命をいただくことの痛みの罪悪感とありがたみを感じることができたからだと思います」と、最後まで大切に味わったといいます。

 そして、女の子は「鶏を抱っこできたりふれあったりしたことが楽しかった。鶏を絞めるときは鶏から怨念のようなものを感じ取って、とても疲れた感じがした。勢子さんが鶏をさばいているときは、内臓を見ることができて、お腹からいろんなものがたくさん出てきてびっくりした。そのあと、お友達と遊ぶことができたり、鶏にまた触れられたりして、また行きたいなと思った」と思いを綴ってくれました。

絞めた鶏をさばく様子【写真:小田島勢子】
絞めた鶏をさばく様子【写真:小田島勢子】

 実際に抱くと温かく、今まで一緒に遊んでいた鶏の命を絶つという行為は、体力以上に心のエネルギーを使うこともあります。とくに、初めて経験する人の場合、命と向き合うにはとても大きなエネルギーが必要なことを、身をもって知ることがあります。

 ドキドキした、疲れた、楽しかった、おいしかった、感動した。たくさんの感想がありましたが、みな共通して「最後まで骨まで愛しくおいしくいただきました」とお話ししてくださり、それぞれが「いただきます」を感じ、考える時間になりました。

 最後に、一年の締めくくりである12月に、4年にわたり連載させていただいていたこのエッセイの卒業を決めました。文才も名声もない私にとって、チャレンジでもあった「文章で表現すること」は、編集部のみなさま、そして読んでくださるみなさまの大きなサポートのおかげで、学びと実り多きものとなりました。

 今後もひっそりと、どこかで「循環」を通じてみなさんとつながっていけることを楽しみにしています。長い間本当にありがとうございました。

(小田島 勢子)

小田島 勢子(おだしま・せいこ)

ナチュラリスト。結婚を機に2004年に南カリフォルニア州へ移住し、3人の女の子を米国で出産。ロサンゼルスの片田舎でバックヤードに鶏たちと豚のスイ、犬のトウフとともに自然に囲まれた生活を送る。母になったことをきっかけに食や環境の大切さを改めて感じ、できることからコツコツと、手作り調味料や発酵食品、スーパーフードやリビングフードを取り入れた食生活をメインに、食べるものは「できるだけ子どもと一緒に作る」「残さない」がモットー。2015年に「RUSTIC」を設立。日本で取得した調理師の知識や経験を生かして食のアドバイザー、ライフスタイルのコーディネーターとして活動。日米プロスポーツ選手やアクション映画俳優の身体作りのアドバイザー、みそ、お酢、漬け物など発酵食品作りの講師、創作料理のケータリングなど幅広い分野で活躍。
https://rusticfarmla.com/