からだ・美容
不妊治療の子連れ受診、「ホントに無理」との声が続出 難しい解決策 医師「アンタッチャブルな部分」
公開日: / 更新日:
子どもを望んでも恵まれない女性にとって、選択肢の一つになるのが不妊治療です。2022年から体外受精が保険適用となり、若い世代にも認知が広がっています。一方で、すでに子どもを産んでいる女性が「2人目不妊」などで通院する場合、子どもを連れて行っていいのかどうか、たびたび議論になっています。クリニックの待合室は「子どもNG」が通例で、子どもを預ける場所がないとの声もあります。互いに嫌な気持ちにならないために、解決策はないのでしょうか。杉山産婦人科グループの杉山力一理事長に聞きました。
◇ ◇ ◇
子連れ受診は是か非か 「お互い思いやりが必要」の声も…
この問題が注目されたのは昨年12月でした。不妊治療中の女性が、病院のフロアに子連れの女性がいたことへの違和感をネット上で告白し、大きな議論になりました。別の投稿者が「治療中の私に配慮して」はいきすぎた風潮だと批判的に意見したところ、不妊治療経験者から「ホントに無理」との声が相次ぎ、投稿は非公開になりました。一方で、「気持ちは分かるけど相手にだって事情がある」「お互い思いやりが必要」と難しい状況を理解しつつも、中立的な見方が必要との声もありました。
第1子を不妊治療で授かった30代女性は、「子連れはなしかな…。難しいとは思いますけど、託児のついているクリニックに行くしかないと思います」と語ります。
その理由について聞くと、「つらいじゃないですか。1人目が順調で2人目が不妊の人は気づかないかもしれないけど、1人も授からないかもしれないという不安がある。常に崖っぷちな気持ちでクリニックに行っている。(子連れがいたら)やっぱり、ねたましい気持ちになっちゃうと思います。1人も子どもを持てない人にとっては、余計苦しくなっちゃうし、みじめな気持ちになっちゃう。もちろん、子どもに罪はないし、子どもはかわいいけど、それとは別。頭で理解していても気持ちは別だと思います」と説明しました。
実際、子連れでなかったとしても、女性はふとした言葉が気になったそうです。
「待合室で、『1人目のお迎えがあるから、診察の時間を変えてほしい』と大きな声で話している人がいて、聞いている人はどう思うかと不安になりました。もうちょっと言い回しがあるんじゃないかと思いました。お金も時間もかけてそれでもうまくいくか分からないまま診察を待っている人しかいないですから」
病院側はこの問題についてどのように判断しているのでしょうか。
杉山産婦人科新宿では、子どもを連れての待合室での待機や診察室への受診は「基本的にはご遠慮いただければ」という方針です。杉山理事長は、子どもが静かに待てないこと、受診する母親が子どもの対応に追われてしまうこと、他の患者への精神的影響の3点を理由に挙げました。
「病院ですから1時間待ち、2時間待ちになるときがあるんですよね。子どもを連れてきて、静かにしようと思っても無理だと思います。騒いだり走ったりしちゃうんですよ」。その結果、母親が子どもの世話に追われてしまいます。「例えばお母さんが一緒に外にあやしに出ちゃうと、今度は診察の順番のときにお母さんがいないという現象が起こります」。次の患者が待機している中で、混乱をきたしてしまいます。
そして、子どもの存在が他の患者に心理的な影響を与えるという問題です。
これについては、「(子どもを見て)励みになる人もいるかもしれないし、『あ、かわいい』と思うかもしれないし、私はできないからあの子かわいくないと思うかもしれない」と、受け止めに個人差があることを指摘。「その是非を他人が決める必要はないと思います」との見方を示しました。一方で、病院側としては、子どもを受け入れることができない人に寄り添うことを優先させると言います。「(子連れ受診は)通常の不妊クリニックは絶対NGですね。基本的に『それは嫌だ』という人の声を重視するからです。規模が大きいクリニックだと、子連れの人はこのフロアで診察しますというクリニックもありますが、それもごくまれです」と杉山理事長は語りました。