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球団通訳だけが知ってるマル秘エピソード 外国人選手の家族思いなオーダーにびっくり

公開日:  /  更新日:

著者:芳賀 宏

外国人選手の妻のバースデー準備に奮闘した過去も…(写真はイメージ)【写真:写真AC】
外国人選手の妻のバースデー準備に奮闘した過去も…(写真はイメージ)【写真:写真AC】

 10年間で総額7億ドル(約1015億円)という、北米プロスポーツ史上最高額となる契約金でMLB(メジャーリーグ)ロサンゼルス・ドジャースへの移籍を果たした野球の大谷翔平選手。日本から海を渡った大谷選手とは対照的に、日本に“助っ人”としてやってくる元MLBの選手たちがいます。日本人とは異なる個性を発揮する彼らの多くは、名実ともにたくさんのファンに愛されてきました。その反面、国の違いから、日本人にとってはびっくりするようなオーダーで球団スタッフたちを悩ませたことも。2015年から埼玉西武ライオンズで通訳を務める町田義憲さん、2017年から務める小林俊太郎さんに話を伺いました。

 ◇ ◇ ◇

スポーツ選手の通訳の仕事は通訳だけじゃない

 通訳の仕事といえば、外国語から日本語、その逆を交互に行います。常に外国人選手への隣に立ち、耳打ちするように言葉を伝えるのが主な仕事です。しかし、スポーツの世界では言葉を伝えるだけが仕事ではありません。日本での生活を円滑に進めるために身の回りの世話をすることも、通訳の仕事のひとつ。ときには、選手の家族からの要望に応えるために動くこともあります。要は、外国人選手が日本での生活に負担を感じることなく、気持ち良く、プレーに専念できるように環境を整えることが仕事なのです。

 2014年、西武には加入1年目にもかかわらずホームラン王(34本)を獲得した凄腕の選手がいました。ベネズエラ出身のエルネスト・メヒア選手です。彼はチャンスに強い打撃を売りに、比較的短いシーズンの在籍が多い外国人選手のなかで、8シーズンも在籍。親しみやすい人柄もあってか、多くのファンに愛されました。

 町田、小林の両通訳はメヒア選手のことを、「ラテン系特有の明るさはもちろんありますけど、日本文化に対する理解も深い。分別もある選手だったので、手を焼くようなこともありませんでした」と口をそろえます。それでも、小林さんには忘れがたい“オーダー”があるそうです。

「あれは、奥様のご家族が来日するというので日本観光、とくに京都を楽しんでもらいたいということだったと記憶しています。たたみのある伝統的な『ザ・旅館』で、それでいて外国人に対してもきちんと対応できる宿泊先を探してほしいとオーダーされたんです」

オーダー通りに動いたのに…選手の回答は「too expensive!」

 球団通訳の主な仕事場は、もちろん選手のいるグラウンドです。このときもチームは福岡(ソフトバンクホークス戦)へ遠征中で、小林さんは遠征先での仕事もしながら遠隔地から旅行のアレンジをする必要がありました。

 そこで、試合前の練習中など、ちょっとした時間を使って必死に旅程を作成。「メヒア選手は家族のことになるとお金に糸目はつけないタイプだし、実際に稼いでいましたから、予算をあまり気にせずに計画しました」と小林さんは語ります。多いときには推定年俸5億円のメヒア選手のために目一杯、要望に応えようと頑張りました。

 ところが……。

「メヒア選手からの『too expensive!』(高すぎる!)のひと言で、最初からやり直しになりました」

 結局、たたみもない京都駅前にある、いかにも“ザ・ホテル”な場所に宿泊してもらったとか。メヒア選手の期待と金額が見合わず、小林さんの苦労も実ることはありませんでした。それでも、「彼は文句をいう人ではないですし、最終的にはご家族も楽しんでくれたようなので良かったです」と笑って振り返るあたりに、メヒア選手の人柄と通訳さんとの関係性がうかがえます。