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「源氏物語」は現代に似ている? 1000年以上も愛され続ける理由とは

公開日:  /  更新日:

著者:Hint-Pot編集部・出口 夏奈子

京都府宇治市を流れる宇治川にかかる朝霧橋。そのたもとにある「宇治十帖モニュメント」は、源氏物語「宇治十帖」を象徴している(写真はイメージ)【写真:写真AC】
京都府宇治市を流れる宇治川にかかる朝霧橋。そのたもとにある「宇治十帖モニュメント」は、源氏物語「宇治十帖」を象徴している(写真はイメージ)【写真:写真AC】

 日本人ならば誰もが一度は目にしたことがある「源氏物語」。今から1000年以上も前に、紫式部によって書かれたとされる古典文学です。国語の古文の時間に学んだだけの人も、書画で売られている現代語訳や解釈本を読んだことがある人も、改めて知りたい源氏物語。1000年以上にわたり日本人を魅了してやまない理由について、長年研究をしている椙山女学園大学の高橋麻織准教授に話を伺いました。

 ◇ ◇ ◇

源氏物語は、読み手の成長とともに見え方が変わる作品

――高橋先生は源氏物語の研究をされていますが、そもそもの先生と源氏物語との出合いについて教えてください。

「私が初めて源氏物語を原文で読んだのは大学生のときでした。平安時代の文学作品をゼミで選択していて、源氏物語の第二部三十四帖「若菜」の上巻を読んだのです。主人公の光源氏が40代に入り、晩年を迎えた頃の話なのですが、光源氏の兄である朱雀帝が病気で死期が近くなってきたとき、娘の結婚を終えてから出家したいと思い悩むシーンがあります。それを読んだとき、『この巻はあまりおもしろくないな』と思ったのです」

――どうしてそう思われたのでしょうか。

「まだ私自身が20歳だったこともあり、娘を思う父親の気持ちを理解できなかったのですね。それを当時の指導教員に話したら、『そうでしょうね』と言われて。『でも、そのうちだんだんとおもしろいと思うように変わっていきますよ』と。そして自分が30代に入ったとき、そのあたりの心情を理解することができるようになりました。その話を先生にしたら『そうでしょう。次は「御法」巻あたりがおもしろくなるよ』なんて言われました。今の自分では、『御法』巻はまだそこまで共感できませんが、理解できるようになるのが楽しみでもあります。そうやって読む人自身の成長とともに物語の見え方、感じ方が変わってくる。そして新しい発見やおもしろさに気づくことができる。何歳になっても楽しめる作品です。そこは源氏物語の魅力なのかなと思います」

200ほどあった作品から1000年後の現代にまで生き残った名作

――この物語が書かれたのが1000年以上も前というから驚きです。

「優れた作品というのは普遍性と共通性があると考えています。物語が書かれた平安時代中期と令和の現在では、時代が変わってしまっているので理解できないことも多々ありますし、それは仕方がないことなのですが、それでも共感できる部分があるところが長年読み継がれてきた理由なのかなと思います。平安時代に生きた人たちも、令和を生きる私たちも同じ日本人なので1000年経っても理解できる、共感できる部分があるんだと思います。実は平安時代、鎌倉時代を通してなのですが、これらの時代に書かれた物語は200作品ほどあったらしいのです」

――そんなにあったのですか?

「はい。そう記録に残っています。でも、現存する物語は20作品ぐらいなので、ほとんどの作品が失われてしまっているのです。その理由は、あまりおもしろくなくなったこともあるかもしれませんね。当時はコピー機がなかったので、手書きで書き写して複製を作り読み回していたのですが、それは大変な作業ですよね。ですから本当におもしろい、読みたい作品しか残らなかったのです」

――ちなみに源氏物語のおもしろさを、長年研究されている先生自身がどなたかに伝えるとしたら、どのように物語の説明をされますか?

「一般的に源氏物語は光源氏のプレイボーイぶりと、それにまつわるドロドロした恋愛模様が描かれた作品だといわれています。実際にいま、私自身が勤めている女子大の学生たちに聞くと、『光源氏みたいな男は嫌だ』『本当に平安時代はこんなにドロドロしていたんですか?』と聞かれるのですが、平安時代と現代とではあまりにも時代背景が異なっているので、どうしても現代人から見るとそういうふうに見えてしまうのです。でも、当時の貴族たちは一夫多妻制でそれが普通の感覚でしたので、源氏物語をプレイボーイの恋愛物語とするのはちょっと疑問に感じます。ですから個人的には、それだけではない魅力がたくさん詰まっている物語ですよとお伝えしますね」

――具体的には、恋愛物語以外にどのような要素が含まれているのでしょうか。

「私自身は政治や王建の物語であるととらえています。もちろん仏教の宗教的なことも書かれています。若い頃の光源氏は恋愛も政治も栄華を極めるのですが、晩年には出家を志して『自分の人生ってなんだったんだろう』と振り返り苦悩する場面も出てきます。ですから、本当に人生のありとあらゆることが込められている、そういう物語だと考えています」