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単なる恋愛物語ではない 「源氏物語」の本当の魅力とは 専門家に聞いた

公開日:  /  更新日:

著者:Hint-Pot編集部・出口 夏奈子

主人公・光源氏の人間味あふれる「両義性」も描かれている

――ほかにはどんな点に着目するといいのでしょうか。

「やはり主人公である光源氏に着目してほしいですね。彼は物語の中で両義的な存在なのです。7歳のときに『帝王の相がある』と予言されたにもかかわらず、帝にはなれませんでした。そして、そのことを光源氏自身はコンプレックスに感じています。光源氏って天皇の子でかっこよくてモテモテで、完璧な男性として描かれているのですけど、実は自分自身にコンプレックスを抱いているんじゃないかと思うのです。光と影、あるいは正と負のような両義的に主人公像が描かれているという点は、私たち読み手側にも共感できるポイントなのかなと思います。それに紫の上の存在の大きさに気づいたのも、遅かったですよね?」

――18歳の光源氏が療養中の北山で、若紫(紫の上)を垣間見(かいまみ)する場面は有名ですよね。光源氏が紫の上の存在の大きさに気づいたのは、確か晩年だったと思います。

「光源氏は晩年の40歳を過ぎてから、朱雀院の娘である女三宮という若い女性を正妻に迎えるのですが、そのあと、紫の上が自分にとって最高の女性であったという事実に気づくのです。そして女三宮との結婚を機に、光源氏も紫の上も苦悩を抱えて晩年を過ごすことになります。失って初めて気づく幸せ。これは現代に生きる私たちも非常に共感できることなのではないでしょうか」

――作者である紫式部はなぜ、主人公の光源氏にコンプレックスや苦悩を与えたのだと思いますか。

「それにより、人間の本質を描こうとしたのではないでしょうか。結局、この物語が最後に言いたいことはなんなのかということが大事になると思うのですが、光源氏はすべてを手に入れた、まれに見る人物です。私たちには出世したい、お金が欲しい、美しくなりたいといったさまざまな欲があります。そういったすべてを手に入れた人物こそが光源氏なのですが、そんな人間が最終的に行きつくところはなんなのか。それを紫式部は最終的に描きたかったのかなと考えています」

――最終的に人間が行きつくところ……。「源氏物語」のなかではどう描かれているのでしょうか。

「それは宗教的な、仏教への救いとして描かれています。結局、人はどんな人物であれ、最終的に死が訪れます。ただ、私自身がまだそこまで到達できていないので、おぼろげにしか理解できないのですが、実際に死期が近づくとどんな人であれ、何かに救いを求めるのかもしれませんね」

◇高橋麻織(たかはし・まおり)
1980年、岐阜県生まれ。明治大学大学院博士後期課程修了。博士(文学)。明治大学文学部助教・講師、日本学術振興会特別研究員(RPD)を経て、2018年より椙山女学園大学国際コミュニケーション学部講師、2021年からは准教授に就任。専門分野は古典文学や歴史物語、「源氏物語」で、平安時代の文学作品と歴史との関連性について研究を続けている。

(Hint-Pot編集部・出口 夏奈子)