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時代風刺だった? 才女・紫式部が「源氏物語」に込めた意図と人物像とは

公開日:  /  更新日:

著者:Hint-Pot編集部・出口 夏奈子

京都府宇治市を流れる宇治川のほとりに建つ紫式部像【写真:写真AC】
京都府宇治市を流れる宇治川のほとりに建つ紫式部像【写真:写真AC】

 私たちが平安時代について考えるとき、最初に思い浮かぶのは「源氏物語」の世界観ではないでしょうか。現実社会を超越したといわれる「源氏物語」。その物語を執筆したのが、才女・紫式部でした。しかし彼女もまた、現代を生きる女性たちと同様に生きづらさを感じていたといわれています。紫式部が「源氏物語」に込めた思いとはなんだったのでしょうか。隠されたメッセージについて、椙山女学園大学の高橋麻織准教授に伺いました。

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「源氏物語」は時代を風刺? 紫式部が物語に込めた意図とは

――2024年のNHK大河ドラマ「光る君へ」の主人公は紫式部です。今後ますます注目が集まりそうですが、紫式部はどんな思いを込めて「源氏物語」を執筆したとお考えでしょうか。

「2023年の大河ドラマ『どうする家康』のラストで、茶々を演じた北川景子さんが自害する前に吐き捨てたセリフがとても印象的でした。『つまらぬ国になるであろう……優しくて卑屈なか弱き者たちの国に』というセリフなのですが。ネット上で話題になっていましたが、これってまさに社会風刺だなと思ったのです。いわゆる茶々が予言した国こそが、現代社会そのものだなと。でもこれって、作者がそう言わせているわけですね。ドラマの中のキャラクターを通して作者が自分の考えを表現しているのですが、まさにそれと同じことが『源氏物語』の中にもありますし、紫式部もその意図を持って執筆していると感じます」

――紫式部の意図とは、具体的にどのような場面で感じられますか。

「おそらく紫式部は当時の摂関政治の暗部を否定しています。藤原氏の外戚による政治ではなく、理想的な政治はこういうものだという紫式部の考えを主人公の光源氏を通して体現しているのが、『源氏物語』ではないかと感じています。また、第二十二帖『蛍』に登場する玉鬘(たまかずら)というお姫様と光源氏とのやりとりの中でおもしろい場面があります。ある日、玉鬘がある物語に読みふけっていました。そこへ光源氏がやってきて、物語なんて嘘ばっかり書いてあるんだよとからかうのですが、『“日本紀”などは、ただかたそばぞかし。これらにこそ、道々しくくはしきことはあらめ』と名言を残すのです」

――これはどういった意味なのでしょうか。

「『日本紀』とは、『日本書紀』などの歴史書を指します。当時の女性貴族が読むのは物語で、男性貴族が読むのは歴史書。それを踏まえて、物語は作り話ですが、歴史書は事実が書かれてあって、どっちが上かといえば歴史書だよねという考えが当時の主流でした。ですが、ここでの光源氏は、日本紀、すなわち歴史書に書かれることは世の中に起きた事象の一側面でしかない。しかし創作された物語には、人間の真相真理や物事の道理が描かれているんだよと言っているのです。もちろん物語の中では光源氏が発する言葉なのですが、作者である紫式部が言わせていると考えられます。平安時代中期に生きた人の考えからすると、かなり超越した文学観です」