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「手に取ってみたくなる」 若年層のアルコール離れに風穴を 老舗酒造メーカーの思い
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アルコール度数25%の「いいちこ」 新商品は6%
同社が強くこだわり、譲れなかったのは、「いいちこ」らしさを感じつつも新しい味わいがあること。焼酎の味や香りを決める重責を担った三和研究所クロスオーバーセンター開発室の松本真一郎室長は「社内は酒好きが多いですから、当初はアルコール度数8%くらいをイメージしていました。ところが、調査結果はもう少し低いほうがいいということで6%になりました」といいます。
しかし、主力であるアルコール度数25%の「いいちこ」では、6%にすることで本来の味わいや迫力に欠ける部分が出てしまいます。そこで、少しブレンド比率を変えることで味わいを補い、また既成概念にとらわれない製品にチャレンジすることで、この商品でしか味わえない「とろみ」も出すことに成功したのだそうです。
「そこにちょっとノウハウがありました。我々は、お届けしたいお客様が好むお酒をチューニングしたというのがポイントかと思っています」という松本さんの話には、焼酎ブランドとしてのプライドが垣間見えます。
ターゲット、焼酎の味わいからパッケージデザインを決定
商品の味わいが決まれば、次は手に取ってもらうために必要不可欠なデザインです。淡いベージュのカップに、オレンジ色の大きな「温」の文字と、その中に「HOT」のロゴ。雪がちらつく冬らしい、やわらかなイメージに仕上がりました。
近藤さんは「テストのとき『手に取ってみたくなる』『かわいい』というお声をいただきました。そこが“刺さった”のかもしれません」と、決め手になった理由を説明します。
「いいちこ」ブランドを守りながらも若年層の発掘を
こうして1年4か月かけて誕生した「ホッといいちこ」。三和酒類株式会社にとっては、今までにないアプローチだったようです。
「通常は『おいしいお酒を造ったので出しましょう』というのが流れです。それが今回はお客様の声を聞きながら、そちらに寄せていくという慣れない作業でした。温かい飲み物ではあるけれども、『いいちこ』から大きくはずれてはいけない。いいチャレンジだったと思います」(松本さん)
新たな世代の顧客を掘り起こしていくことは、酒造メーカーに限らず「時代の流れ」かもしれません。三和酒類株式会社には、おなじみの「いいちこ」にも数多くの製品があり、愛好者を楽しませています。田部さんは「長らく『いいちこ』というブランドを守ってきていますし、一方でチャレンジを後押しする気風もあります」と話します。
1月30日から数量限定で販売されている「ホッといいちこ」は、今のところ3月末には店頭からなくなる見通しです。「『ホッといいちこ』のような、お客様との新しいタッチポイントとなる商品や、プロモーション施策を今後もぜひやっていきたいと考えています」と田部さん。
商品そのものだけでなく、飲み方や合わせるつまみ、食事などの情報も伝え、楽しみ方を広げていくことが、次世代の“いいちこファン”獲得につながっていくのかもしれません。
(芳賀 宏)