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「場所によって違うのはどうして?」 フィンランド母娘の素朴な疑問 思い出に持ち帰ったものとは

公開日:  /  更新日:

著者:豊嶋 操

満開の桜を楽しむ外国人観光客たち(写真はイメージ)【写真:Getty Images】
満開の桜を楽しむ外国人観光客たち(写真はイメージ)【写真:Getty Images】

 今年も桜の季節がめぐってきました。日本人の大好きな花見は、「HANAMI」として海外でも知られつつあります。そして、日本の桜を見たいという人は年々、増加の一途です。訪日外国人を日本各地へガイドする、通訳案内士の豊嶋操さんよる連載「ニッポン道中膝栗毛」。今回は、3週間にわたって南から北へ桜尽くしの旅を満喫した、フィンランドから来た母娘2人組を案内したときのお話です。

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日本の歴史とともに味も香りも堪能

 フィンランド人の母娘が桜の絶景のほかに、感銘を受けたと言っていたものがあります。それは桜餅です。

 お嬢さんはアニメを観て、桜餅の存在をもともと知っていたため、各地で何度も食べていました。かわいらしい見た目だけでなく、ひとくち頬張るとふわっと鼻に抜けるその香りの虜になったそう。そしていただいた質問がこちら。

「桜餅は表面がつるつるしたものとつぶつぶしたもの、2種類あったけれど、どちらもおいしいですね。でも、場所によって違うのはどうしてですか?」

 つるつるの長命寺スタイル、つぶつぶの道明寺スタイルは、それぞれ発祥も食べられている地域も違います。長命寺式はその名の通り、東京・向島の長命寺が発祥です。18世紀に桜の名所をいくつも作った8代将軍・徳川吉宗は、隅田川沿いにも桜を植えました。長命寺の門番がその葉に目をつけ、塩漬けにして桜餅を考案したところ大ヒット。ご存じの通り、小麦粉の皮と塩漬けした桜の葉で、あん玉をくるりと巻いたクレープ状です。

つるつるの長命寺(右)とつぶつぶの道明寺の桜餅(写真はイメージ)【写真:写真AC】
つるつるの長命寺(右)とつぶつぶの道明寺の桜餅(写真はイメージ)【写真:写真AC】

 一方、つぶつぶのほうは19世紀前半に大阪・北堀江の土佐屋が売り出したもの。もち米を蒸したあとに、乾燥した道明寺粉(大阪・道明寺が発祥)であんを包んでいます。ゆえに皮がつぶつぶもちもちです。

 では、この2つの桜餅が食べられている地域が、東日本と西日本ではっきりわかれているのかといえば、そうでもないのがおもしろいところです。北海道は関西発祥のつぶつぶ道明寺タイプで、北前船によって大阪からもたらされたといわれています。かたや山陰では東のつるつる長命寺タイプが主流。大名茶人で名高い松平治郷(不昧公)を輩出した松江藩の元家老が隅田川堤の桜餅を御用菓子司に伝え、そこから広まったそうです。江戸時代のロジスティクスが桜餅勢力図に影響を与えていたことがうかがえます。

「それぞれの生まれた背景を聞くとなんだかひと味違う気がする!」といいながら、ふたりは通算14個目の桜餅を堪能していました。