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カルチャー

「場所によって違うのはどうして?」 フィンランド母娘の素朴な疑問 思い出に持ち帰ったものとは

公開日:  /  更新日:

著者:豊嶋 操

帰国してからも桜を楽しみたい

 桜餅を葉まで食べてすっかり香りが気に入ったお嬢さんは、この時期に出回る桜グッズだけでなく、「花や樹も持って帰れたらなぁ……」とつぶやいていました。

 さすがに樹木はちょっとね……と思いつつご紹介したのが、桜の塩漬けと樺桜の茶筒です。お茶屋さんで桜湯をいれていただくと、ふたりはお茶碗の中でひらひらと舞う花びらに目を輝かせました。

「一部の地域では、婚礼などおめでたい機会にはお茶の代わりに(“茶化す”のを避ける意味もある)桜湯を飲む習慣がある」と伝えると、眺めているだけで「気分が華やぎます」と納得の様子です。

 また、秋田・角館の伝統工芸品である樺桜の茶筒は、美しいだけでなく、防湿・防乾性に優れています。棚に飾って、いつでも日本の春を思い起こせるということで、気に入っていただけました。

 そして、お別れ前に、桜に対する日本人特有の感性についてもお伝えしました。吉田兼好は徒然草第137段で「もうすぐ咲きそうな枝や花びらの散り敷かれた庭にも見るべきものがある」と記しています。この言葉を借りてお話すると、「一年のごく短い時期に全力で咲き、あっという間に散っていくはかない美しさには私たちもいろいろ感じ入ることがある」と、思いをめぐらせていました。

 数か月後、帰国したふたりからうれしいメールが。

「今日、桜湯の中の花が開くところから、飲み干してしぼむところまでじっくり見ながら決めました。来年の春も日本に行きます」

 これ以来、桜餅の名店リストのアップデートが欠かせなくなったのは言うまでもありません。

【参考】
世界大百科事典【桜餅】解説
文化庁文化財部伝統文化課 平成28年度伝統的生活文化実態調査事業報告書【郷土食】

(豊嶋 操)

豊嶋 操(とよしま・みさお)

全国通訳案内士・医療通訳・薬剤師。医療系出版社に勤務後、通訳案内士となる。プライベートツアーや企業視察時のガイドだけでなく、国内外テレビ局の日本紹介番組にて通訳を担当。『ニッポンおみやげ139景(KTC中央出版アノニマ・スタジオ)』を出版後、TBSラジオ出演。現在はガイド・ツアープロデューサーとして活動の傍ら、「美食地理学」の構築にも取り組んでいる。