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「トイレいっぱいに油が浮く」って本当? 話題の抗肥満薬 ネットの噂の真偽を医師に聞いた

公開日:  /  更新日:

著者:Hint-Pot編集部

話題の抗肥満薬成分の噂は本当?(写真はイメージ)【写真:PIXTA】
話題の抗肥満薬成分の噂は本当?(写真はイメージ)【写真:PIXTA】

 市販薬である大正製薬の内臓脂肪減少薬「アライ」の有効成分「オルリスタット」や、肥満症治療薬の「GLP-1」などの抗肥満薬成分が、SNSやネット上で話題になっています。「アライを飲むと、便と一緒に食べた油がそのまま出てきてトイレいっぱいに浮く」「おむつをしなくちゃいけないって本当!?」「GLP-1を服用しても食欲がなくならない人がいる?」などさまざまな噂が出回っていますが、メカニズムをきちんと理解して正しく使用したいですね。そこで、日本生活習慣病予防協会理事長、日本肥満症予防協会副理事長を務め、肥満症治療の最前線を知る医師の宮崎滋先生に、詳しくお話を伺いました。

 ◇ ◇ ◇

内臓脂肪を減らすオルリスタットとは?

 まずは、アライに含まれる「オルリスタット」という成分についてです。オルリスタットは、リパーゼという脂肪分解酵素を特異的にブロックすることにより、食事由来の脂肪の吸収が抑制され、結果として食事に含まれる約25%の脂肪が便として体外に排出され、体重が減少するエビデンスが立証されている薬物です。

 オルリスタットを含む市販薬が販売開始されてから、トイレで排便するとき以外にもおしりから油が出てくる油漏れという副作用を心配する声がみられますが、それは誇大に伝えられているなという印象を受けます。

 オルリスタットを含む市販薬の副作用として油漏れなどが報告されていますが、全員に発現するわけではありません。臨床試験データによれば、なんらかの消化器症状が発現するのは服用した方の約60%です。しかし、これは普段よりも便がスムーズに出るようになったとか、排便前にお腹が鳴るといった違和感なども含めてのこと。

 60%の方に油漏れの現象が出るということではなく、実際にこの経験をする方はわずかなのではないかと感じています。おむつや生理用ナプキンが必要になるケースも、そんなにないのではないでしょうか。通常の健康的な食事とともに服用していて、油が常に漏れることは考えづらいです。

 ただし、極端に高脂肪の食事を継続的に摂取すると、症状が断続的に生じる可能性が高まると考えられます。逆に油が漏れてきたと感じたら、「油の多い食事の取りすぎ」を自覚して油物を控えるなど、前向きにとらえて食生活を改善していくことをおすすめします。

 オルリスタットを含む市販薬のコンセプトは、動機づけや継続性に課題を持つ生活習慣改善を補助すること。油漏れをきっかけに、脂肪分の多い食事への気づきをもたらし、肥満の方の食生活を自然に改善していくこともこの薬の価値かもしれません。

 アライは薬局で購入できますが、条件があり、購入時に薬剤師さんと実際に対話して購入の可否が判断されます。腹囲(臍(へそ)の高さの腰回り)が男性で85センチ以上、女性90センチ以上、糖尿病、高血圧、脂質異常症などの健康障害などを有していないなど。

 また、直近1か月の腹囲・食事・運動・体重についての記録が必要になります。ダイエットアプリや紙へのメモなど、形状は問われません。毎日の記録が望ましいですが、少なくとも週1回以上の記録をしておく必要があります。

内臓脂肪脂肪を減らすダイエットへの活用のポイント

 オルリスタットを飲むだけで痩せようとしてはいけません。

 服用することで、うまくできなかった生活習慣改善を習慣化させていくことや、そのために必要なモチベーションを獲得していくことが重要です。内臓脂肪を減らすには食事や運動などの生活習慣改善が必要ですから、食事だけでなく、消費カロリーを増やす運動も併用していきましょう。

 ただし、頭で理解していても、実践することや継続していくことは難しい現実があります。

 特定のものを食べることで、脳の特定の部位が快感や満足感を覚える報酬系と呼ばれるメカニズムがあります。これが正常に働いていれば、通常の栄養摂取のための食欲が機能するわけですが、夜中のポテトチップス、お酒を飲んだあとのラーメンなど、理想的ではない報酬系が習慣づいている方もいるでしょう。

 この習慣を我慢して一気に変えようとすると、その反動が大きくリバウンドにつながりやすいといわれます。肥満ぎみの方で、たまの暴食や油物のセーブがどうしてもできない……そんな方はオルリスタットを活用し、健康的な食生活を目指していくと良いでしょう。初めからオルリスタットに頼って、暴飲暴食を頻繁に繰り返してしまうのはNGです。