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町工場を経営していた夫の死去後、莫大な借金が判明 「相続放棄」すれば解決する? 税理士が解説
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「相続放棄」という言葉を耳にしたことがある人は多いでしょう。被相続人に思わぬ借金が見つかった場合、放棄すれば良いと思っている人も多いかもしれませんが、実はそんなに単純ではないケースも多くあるようです。豊富な実務経験がある税理士でマネージャーナリストの板倉京さんが、お悩みを基に解説します。
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工場の整理中に見つかった借金の返済予定表
遺産相続とは、亡くなった人の財産をもらうこと。一般的には、不動産や現預金、株・投資信託など、もらってうれしい(?)財産を思い浮かべます。ところが、なかには借金といううれしくない財産もあるでしょう。
相続財産に思わぬ借金が見つかると、相続人さんたちはとても戸惑います。今回は、個人で町工場を営んでいましたが、仕事中に倒れて亡くなった奥田次郎さん(仮名・65歳)のご家族のケースをご紹介します。
次郎さんが亡くなるまで、工場経営は順調でした。しかし、次郎さんの腕一本で成り立っていた工場でしたので、事実上の倒産です。
後日、奥田さんの妻・正子さん(仮名・62歳)と一人娘の和美さん(仮名・35歳)が、工場の整理をしていると、借金の返済予定表が出てきました。残額はなんと、1億円!
「そういえば、新しい機械を入れるとかなんとか言っていたような……」
昔気質の次郎さんは「仕事や金のことには口出しするな!」というスタンスで、仕事について一切家族に話さなかったそうです。1億円の借金は、順調に仕事をこなしていけば返せる額だと考えていたのでしょう。でも、今となってはこの借金を返す目処が立ちません。
相続放棄は簡単じゃない
このように多額の借金がある場合、「相続放棄すれば良いじゃない」という人がいます。
確かに、その通り。相続放棄をすれば、借金を背負わずに済みます。
でも、実際はそんな簡単な話ではないのです。相続放棄をするということは、借金だけではなく、不動産や現預金、株・投資信託などといった「もらってうれしい」財産も、すべて相続しないということになるのです。
正子さんは専業主婦だったので、自宅も預金も何もかも、すべて次郎さん名義の財産でした。つまり、相続放棄をするということは、これから住むところも、生きていくためのお金も、すべて放棄するということです。
結局、正子さんは相続放棄をせず、すべての財産を引き継ぐことにしました。一方、和美さんはすでに結婚して家を出ていたこともあり、相続を放棄することに。銀行も、ほかに相続人がいないのなら少しずつでも返してくれれば良いと言ってくれました。