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仕事・人生

認知症の父 介護に疲弊した母 入院に向けてアラフィフ娘に生じた葛藤

公開日:  /  更新日:

著者:和栗 恵

驚くほどスムーズに進んだ入院までの道のり

 さっそく母に連絡を入れ、病院に電話をさせました。これは、理論的な私が電話をするよりも、一緒に住む母がありのままの状態でかけたほうが、相手に現状が伝わりやすいと思ったためです。すると、意外にも……というべきか、思った通りというべきか、その場で入院OKとの返事をいただけたのです。

 入院日は約1週間後に決定。その前に、「ご家族と面談がしたい」とのことで、母と私のふたりで病院へと出向くことになりました。

 私と母は、思わず脱力。

「こんなに呆気なく入院が決まるなんて。お母さん、ホンキで驚いちゃったわ~」

 久しぶりに笑顔が浮かんだ母に、ホッとしたのを覚えています。

 3日後、母と病院へ。まずは医師から、治療の方向性についての申し渡しがありました。

「投薬、リハビリにおいて必要以上のことは行いません。また、どのような場合においても、延命治療は行っていません。そのことはどうぞご了承ください」

 ある程度覚悟はしていましたが、目の前に突き付けられた医師の言葉に、動揺しました。

 そう。認知症が進んだ患者を「入院させる」ということは、「入院させたままで“死”を待つ可能性がある」ということなのです。

 一瞬の葛藤。ほんの一瞬ですが、「父が可哀想だから、入院はやめよう!」――そう叫びたい衝動が、心の中を駆け巡りました。しかし、隣で安堵の表情を浮かべる母を見て、その衝動を抑えました。

 私は20代のときに家を出て、好きな仕事に就かせてもらっています。兄がいますが、同様に家を出て家族をつくり、好きな仕事に就いて暮らしています。世話になってきた父親の面倒を24時間看ることもできない私が、「可哀想」と思う権利はどこにもないのです。母の顔を見て、そう結論づけて自分を納得させました。

「入院してもらいながら様子を見て、その後の方向性を決めていきましょう。適切なホームを見つけて入所することができるよう、僕たちも取り計らいますので」

 先生が続けて発したそんな言葉に、少しだけ救われた気がしました。

 父よ……ふがいない娘でごめん!!

父を入院させてから1か月 今、娘が思うこと

 さて、早いもので、父が入院してから約1か月が経ちました。

 最初のうちこそ「なんでこんな場所に押し込めているんだ! 俺を殺す気か!」と、見舞いに行くたびに母に向かってわめいていた父ですが、少しずつ入院生活になじみ、わめいたり、壁を叩いたりするといった暴力的な行いをすることはなくなってきました。

 父を怖がり、ひとりで見舞いに行くのを嫌がっていた母も、最近になってようやく、ひとりで見舞いに行けるようになりました。

 入院させることにより、改めて、認知症というのは本当に大変な病なのだと実感。ケアマネさんのこと、病院の先生のこと、入院のこと……だれが悪いとか良いとかではなく、なにが正解で不正解ということでもなく、その時々で出会う人との相性やタイミング、取り巻く状況や事情によってさまざまなケースがあると思います。私にとっては、父と母の“共倒れ”は防げたので、今はこれが最善策だと思っています。

 次回は、入院にかかる費用など、少しナマナマしいお話をお届けしましょう。

(和栗 恵)