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シャネルを売った日、わいてきた感情は「30代の私、ありがとう」 バブル世代の“還暦準備”「ものを減らすことは自分を知ること」

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著者:Hint-Pot編集部/クロスメディアチーム・吉原 知也

“還暦への準備”について語った山脇りこさん【写真提供:山脇りこ】
“還暦への準備”について語った山脇りこさん【写真提供:山脇りこ】

 バブル世代の女性が当時、恋い焦がれた有名ブランドバッグ。二十数年がたって「売りました」。ちょっと悩んだ決断、そんなシャネルを売った日、胸に去来したのは「30代の私、ありがとう!」の気持ちでした。料理家の山脇りこさんは、50代を迎えてライフスタイルや価値観の変化を実感しているそうです。「ものを減らす」という新境地、ひとり旅などを楽しむ「ひとりの練習」。2年前に亡くした最愛の母の遺品整理からも多くの気付きがあったと言います。“還暦への準備”についてお話を伺いました。(取材・文=吉原知也)

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「母は老いの先生です」 料理家・山脇りこさんが明かす“還暦準備”

「還暦が見えてくる年齢になってきて、これはちょっとした終活でもあります。『私が死んじゃったら、結局は全てのものがゴミになる』。若い頃は考えもしませんでしたが、今、それがすとんと理解できるようになりました」

 このほど最新著作「ころんで、笑って、還暦じたく」(ぴあ株式会社)を上梓した山脇さんは、たどりついた人生観についてこう話します。

 洋服が大好きで学生時代からバーゲンに通い、「ファッション中毒」のまま社会人に。ブランド品に目がなかった30代の頃に本場パリで買ったシャネルのバッグは「一見するとシャネルとは分からない珍しいデザイン」で、自慢の逸品でした。

 あんなに気に入っていたのに、手に取る機会が減り、ここ10年は棚の中に置いたまま。50代になって、バッグの重さにしんどさを感じるようにもなっていました。

 世の中に断捨離が浸透し、中古品の2次流通にもアクセスがしやすくなった時代の空気にも押されて、「別れ話をしました」。売ってみたら5万2000円でした。そこで、「今、自分が好きなことに使う」。お金の使い道のモットーを実践します。横浜のみなとみらい地区に新しくできたホテルを予約。2泊の“プチぜいたく旅行”を存分に満喫しました。

 当時の自分への感謝。それと共に、“古い価値観”を手放した解放感もあったそうです。

「『高価なもの=素晴らしいもの』。バブル世代はバブルの頃、こういった価値観を持っていたと思います。もちろん今も、材料を吟味し、手をかけて丁寧に作られたものは素晴らしいと思っていますが、欲しくなくなったんです。それに、私の中に“野望”がなくなったんです。かつては人付き合いの中で何かの会合に出るだとか、キャリアを積もうとか、そんなことを重視していました。今は、自分の楽しみが最優先。もう旅行に行くために働いているぐらいです(笑)。それに年齢を重ねて、健康維持にもお金がかかります。自分のためにお金を使う。これが1番になっています」。

 山脇さんはここ数年で、人生の別れを経験しました。2023年9月、あと3か月で89歳になる母を亡くしました。「母は老いの先生です」。加齢と向き合って、日々の生活をどうやりくりしていくのか。母の生き方からさまざまなことを学んできたそうです。

 山脇さんの母は、洋服や食器など物を大事にする人でした。その中でも多く残されたのは着物です。「実は、母は生前にきちっと分けて保管していました。高価なもの、若い頃のもの・思い出深いもの、価値が薄いもの……。着物に詳しくない私に教えようと考えたのでしょうね。今も整理を続けていて、私が今好きな着物、それを厳選している最中です。母はお茶の先生をやっていたので、残りは生徒さんたちに、希望のものがあれば持っていってもらおうと思っています。そうすればきっと母も喜ぶかなと」。優しく語ります。