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「魂売ったの?」 電子レンジを“禁じ手”にしてきた女性料理家が一変 きっかけは料理自慢だった母の涙

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著者:Hint-Pot編集部/クロスメディアチーム・吉原 知也

電子レンジ料理もすっかり得意になったという山脇りこさん【写真提供:山脇りこ】
電子レンジ料理もすっかり得意になったという山脇りこさん【写真提供:山脇りこ】

 これまで電子レンジを“禁じ手”として避けてきた料理家が、50歳になって「目覚めました」。今では有効に使いこなしています。文筆業にも精力的な山脇りこさん。還暦を迎えるのを前に、今自分の好きなものを基準に取捨選択する整理整頓、ひとり旅を楽しむ「ひとりの練習」に取り組み、より豊かな人生を送っています。2年前に89歳になる直前に亡くなった母は「老いの先生」。そんな山脇さんの加齢との向き合い方とは。(取材・文=吉原知也)

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「買い置かない、作り置かない」シンプルの追求 料理家・山脇りこさんの流儀

 50代半ばになってから、鍋を火にかけていたのを忘れたり、作り置きの料理を失念したり……。自分のことながら「がく然としました」。プロの料理家によるリアルな告白。どうしてもうっかりが増えてきてしまいますよね。

 このほど最新著作「ころんで、笑って、還暦じたく」(ぴあ株式会社)を上梓した山脇さん。職業として究めてきた料理に対する考えや姿勢の変化、それに“電子レンジ解禁”についても、人生の歩みと共に丁寧に紹介しています。

「買い置かない、作り置かない」シンプルの追求。四季に合わせてその日に手に入れた材料で、作れる料理に取り組むスタイルです。重たい鍋など調理器具も減らす中で、活用を進めたのが、電子レンジ。大学生の頃に1度失敗して以来、20年以上家に置いていなかったそうです。料理家として活動する中で、“怠けている”“手抜き”として、頑としてレンチンを避けてきました。

 そんな山脇さんの考えが変わったのは、80代を迎えた母がきっかけでした。

 料理が大好きで腕自慢。「料理が元気のバロメーター」といつも言っていた母が80歳になった頃、「もう思うようにできない」と、涙目になりながら話したことがありました。山脇さんは帰省のたびに、煮物やカレーなど温めるだけの料理を母に作ってあげるように。「レンジすればいいのに」と提案していたそうです。それでも、母は「もう新しいことはやりたがりませんでした」。

 翻って、山脇さん自身はどうでしょう。「私も同じだ」と実感したそうです。年をとってから新しいことを覚えるのは難儀なことです。「これまでやってきたことを見直して、もっと楽にできる方法があれば、それを早めにできるようになっておくのはいいことかもしれない」。こうして180度の方針転換をすることになりました。

 電子レンジ料理の研究を進め、活用術もどんどん習得しました。印象的だったのが、約1年半前にかけられた知人編集者からのひと言です。「魂売ったの?」。山脇さんは愛のあるツッコミと受け止め、「今のうちにレンジが使えるようになって、心の底からよかったと思ってるんだ」と返したそうです。

 自分のその日の体調を考慮して、レンチンの助けも借りる。そんなスタンスを心がけているそうで、「電子レンジは万能ではなく、あくまで調理器具の1つです。疲れたり、つらかったりしたら、簡単な料理ばかりでも全然問題ないです。自分で作る料理は、自分の好きな味で食べられるので、やっぱりおいしいものです」。

 そのうえで、「自分で作ることを放棄したくないんです。私の好きな味を食べていたいから。自分で作り続けることを優先して、方法はどんどん簡単にしてもいいんじゃないかなと思っています。自分を追い込まないでお料理をしたいですね」と語りかけます。