Hint-Pot | ヒントポット ―くらしがきらめく ヒントのギフト―

仕事・人生

元CAが公認会計士に転身 合格率7%の難関を突破した秘訣と根底にある思い

公開日:  /  更新日:

著者:芳賀 宏

公認会計士を育てる「CPA会計学院」で講師として活躍する砂溜美保さん【写真提供:砂溜美保】
公認会計士を育てる「CPA会計学院」で講師として活躍する砂溜美保さん【写真提供:砂溜美保】

 国家資格にはさまざまありますが、司法試験や医師国家試験と並んで、極めてハードルが高いもののひとつとして知られるのが「公認会計士」です。さまざまな分野で活躍する女性たちにスポットを当て、その人生を紐解く連載「私のビハインドストーリー」。今回は、航空会社で7年間ほど客室乗務員(CA)を務めたあと、合格率7%という超難関の試験に挑み、見事合格した砂溜美保さんに、大人になってもチャレンジすることの大切さを伺いました。

 ◇ ◇ ◇

CAを目指したきっかけはファストフード店での接客業

 公認会計士は、企業の会計監査やコンサルティングをする数字のプロです。砂溜さんは31歳で、2024年8月の論文式試験に見事合格しました。この年の合格者は1603人、合格率7.4%と聞けば、いかに難関であるかわかるでしょう。

 大学卒業後の2015年、全日本空輸株式会社(ANA)に入社した砂溜さんは、国際線と国内線の両方で客室乗務員(CA)として活躍していました。ただ、最初からCAを目指していたわけではありません。大学2年生から始めたファストフード店でのアルバイトで、接客することに興味を持ち、就職活動ではブライダル業界やホテルなども受けたそうです。

 そんなとき、幼い頃、年に1度あった家族旅行が楽しかったという思いから「特別な思いを持った方々と時間を共有できる職業に」と決断。かなりの難関を突破し、念願のCAの職を手にしました。ファストフードでのお客様との接点はわずか1~2分ですが、長いフライトなら10時間以上もともに過ごせることに、喜びを感じたといいます。

未曾有のコロナ禍 航空会社での仕事が激減

 しかし、2020年に猛威を振るった新型コロナウイルス感染症は、航空会社にも大きすぎる影響を与えました。

 業務で海外に毎週行き、国内なら毎日違うところにいるようなそれまでの日々が、パンデミックの影響で一変。仕事量が激減したのです。

 砂溜さんの入社後に2020年の東京五輪開催が決まり、国際線も毎年のように就航先が増えるなど拡大路線を歩んでいました。それだけに、「自分の中で“物足りなさ”を感じるようになっていました」と振り返ります。自身の空疎感に加え、上り調子だった会社が揺らいでいることも実感したのです。

 漠然とした不安を抱えていたとき、ちょうど2020年に結婚した夫が大学時代に商学部だったことから「簿記なら勉強してすぐ身につくから、今の期間にやってみては?」とすすめられました。

「学生時代も簿記なんかやったことがありませんし、恥ずかしながら公認会計士のことも知らないくらいでした」という砂溜さん。ただ、もともと目的があれば「集中して勉強ができるタイプ」ではあったそうです。

 本を買い、独学で簿記3級からスタートし、その後2級に合格。そんなとき「その上には何があるんだろう? そう思ってYouTubeを見ていて、公認会計士という資格を知ったのです」と正直に明かします。

 コロナ禍でフライト先での観光などができず、外出も一切禁止。ある意味、勉強には向いている環境だったことも前向きにとらえたそうです。また、大学は法曹界を目指す人が多い中央大学法学部でしたが、「なんとなく入った自分と目的を持って勉強する人との違いを感じていました。『あのとき勉強を頑張れなかった』という気持ちもあったのかもしれません」と闘志に火をつけられました。

 そうするうち「本気で取り組もう」と、2022年4月にはCAの仕事を休職し、勉強に専念。しかし、ぶつかったのは数字が示す通りの難関でした。

 公認会計士試験はまず、年に2度行われる4科目の短答式試験をパスしなければなりません。同年12月の初試験では、合格基準にわずかに及ばず。その後、2023年5月に短答式試験に合格しました。

 残るは論文式試験ですが、同年8月は不合格という現実を突きつけられます。論文式試験は年に1度のチャンスのみ。翌2024年8月、約3年間をかけて、ようやく高いハードルを越えることに成功したのです。