からだ・美容
「昔の常識」に要注意! 熱中症に牛乳は体温上昇のリスクが 正しい対策を医師が解説
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教えてくれた人:谷口 英喜

記録的猛暑が続く近年の夏。熱中症のリスクは、もはや屋外だけの問題ではなくなっています。冷房の効いた部屋にいても油断は禁物です。では、体調を崩さず元気に過ごすには、どんな工夫が必要なのでしょうか? また、ひと昔前の常識が、今では誤っている場合も。そこで、著書に「熱中症からいのちを守る」(評言社刊)がある、谷口英喜医師に詳しい話を伺いました。
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家の中でもできる、運動の工夫
危険な暑さが続いて外出を控えていると、どうしても体を動かす機会が減ってしまいがちです。運動不足は体力の低下につながり、結果として熱中症リスクを高める要因にもなります。
そんな悪循環を避けるために、谷口先生は、40歳以上の人は意識的に、家で運動をすることをすすめています。
「40~65歳の中高年の方は、軽く汗ばむ程度の運動を毎日行いましょう。たとえば、スクワット10回や、雑巾がけ・床拭きを10分、腹筋50回、腕立て伏せ25回などを目安に行うといいと思います。
65歳以上の高齢者の方も、無理をしない範囲で体を動かすことは大切です。椅子に座って足踏みを10回×5セット、椅子から立ち上がり座る動作を5往復×2セットなど、ご自身のペースで行うと良いでしょう」
どの年代でも、下半身を鍛えることがポイント。下半身には筋肉が多く、その量を維持することが熱中症対策につながるそうです。また、体を動かすことによって「下半身にたまった血液を全身に循環させ、放熱に有効」だといいます。
飲み物だけではない! 正しい水分のとり方とは
熱中症対策には、水分補給が要です。高齢になると、喉の渇きを感じにくくなったり、体内に水分が保持しにくくなったりして、気付かないうちに水分不足になりやすいといわれています。
水分補給というと、何かを飲むイメージがありますが、実は食べることも大切だと谷口先生は指摘します。
「水分補給の基本の考え方は、食事をとること、不足分を飲み物で補うことです。暑さが厳しいと、そうめんや冷や麦などのあっさりした食事に偏りがちです。しかし、それだけでは栄養が不足しがちで、熱中症になったときに回復が遅くなることもあります。普段から彩り豊かな食事を心がけましょう」
意識したい栄養素としては「エネルギー代謝を促すためにビタミンB群を、暑さによる炎症を抑えるためにビタミンCを、体温下げるためにカリウムや水分をとり入れることがおすすめです。たとえば、果物のキウイフルーツは、それぞれを手頃に補うことができます。また、体温を下げ、疲労回復効果のあるタウリンも摂取するといいでしょう。タウリンは、イカやタコ、ホタテなどに多く含まれます。水溶性の物質なので、スープにして飲むと効果的です」とアドバイス。
そのうえで飲み物から水分補給していきます。適した飲み物や効果的な飲み方を押えておきたいところ。
「飲水は、200ml以下をこまめに飲むのが理想です。一度に500ml以上、大量に飲むと尿意を促してしまいます。アルコールは水分補給にはなりません。それ以外の飲料は水分補給として効果がありますが、過度の糖分や塩分摂取にならないよう気をつけましょう。カフェイン入りの飲料は、利尿を促すため熱中症対策にならないといわれることがありますが、尿意が近くならず慣れている人であれば水分補給としてとっても構いません」
飲水のタイミングは「夜寝る前と、朝起きたとき」がとくに重要だと、谷口先生は強調します。適切な水分補給を心がけましょう。
見直したい「昔の常識」
熱中症対策として、少し前までは「常識」だったことが、実は逆効果になることもあるようです。
たとえば、塩あめや梅干し。「熱中症かもしれない」と感じたら、とろうと思っている方もいるかもしれません。ただし、そのタイミングでは効果はなく、リスクが高まることも。谷口先生は次のように語ります。
「塩あめや梅干しは、熱中症の症状が出てからとっても小腸まで届かずに効果が出ないことがあります。大量の水分も一緒にとらないと、効果がないばかりか、危険な場合もあります。また、生理食塩水(0.9%の食塩水)は、飲むと塩分が高すぎて飲用には不向きです。ほかにも、熱中症になった際に牛乳を飲むと、体温はさらに上がってしまいリスクが高まります」
近年の夏は、昔の夏とは別物。熱中症対策の情報も正しい知識をアップデートして、生活全体を見直すことが大切です。
(Hint-Pot編集部)

谷口 英喜(たにぐち・ひでき)
医師、済生会横浜市東部病院 患者支援センター長/周術期支援センター長/栄養部部長。麻酔・集中治療、経口補水療法、体液管理、臨床栄養、周術期体液・栄養管理のエキスパート。日本麻酔学会指導医、日本集中治療医学会専門医、日本救急医学会専門医、TNT-Dメディカルアドバイザー。1991年、福島県立医科大学医学部卒業。学位論文は「経口補水療法を応用した術前体液管理に関する研究」。2025年6月20日に新書「現代バテ 即効回復マニュアル」(評言社刊)が刊行。そのほかの著書に「いのちを守る水分補給~熱中症・脱水症はこうして防ぐ」(評言社刊)などがある。