仕事・人生
「大切なのは家族づきあいができるか」 創業150年の京都・老舗茶筒店 海外進出でも優先する「人と人とのつながり」
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人と人とのつながりが世界に広げた、茶筒が持つ本当の価値への理解

商品が売れれば良いというわけではありません。八木さんには守り抜きたい思いがあります。それは「人と人とのつながり」「手から手への温もり」、そして「心」です。
「うちの茶筒は150年前に始まってから、機械化の波には乗らずに、ずっと手づくりでやってきました。僕らが作るのは人と人との間をつなぐ茶筒であって、お金をもらうだけのものではない。だから、修理も大事だし、何年経ってもしっかり修理しますよ、ということで買っていただいている。僕らができるのは、こういう1対1のおつき合いなんだと思います」
国内外から「欲しい」「店に置きたい」と声がかかり取引を始めてみるものの、スムーズにいくところがあれば、いかないところもある。「この違いは何だろう?」と考えた時、心の中におぼろげにあった思いが色濃くなりました。「数字じゃない、大切なのは“家族づきあいができるかどうか”なんです」と、八木さんは大きく頷きます。
海外進出のきっかけとなったティムさんは、単に商品を輸入販売するのではなく、手から手へ伝わる温もりや想いをしっかりと理解。開化堂の茶筒が持つ価値をイギリス文化に溶け込むように伝えてくれました。「そんな邪魔くさいこと、家族づきあいができるほどの信頼関係がなければしませんよ」。
数字だけで評価する会社、実店舗を持たず対面販売をしない店とは取引をしない、というのが八木さんのモットー。なんでも言語化される時代だからこそ、言語化できない感覚的なものを理解し合える関係を「心が通じるという意味で同じ言語でしゃべれるつながり」と表現します。
人と人とのつながりこそが、人の心を動かすポイントとなり、心が動いたことを人は忘れない。この感覚こそが、開化堂150年の歴史を紡いだ芯となっているのかもしれません。革新的(innovative)や唯一無二(one and only)であることが珍重される今だからこそ、八木さんは自身の役割をこう考えます。
「伝統工芸のように何代も伝わってきたものには、唯一無二と同じ価値があると思っています。世の中にその価値をもういっぺんキチンと伝えること、ものづくりを次世代の人が忘れられないようにすることが、僕の役目なのかなと」
「役目」を果たすためにとる八木さんのアプローチ。それは伝統の世界に新風を吹き込ませる、とても興味深いチャレンジでもあります。
(Hint-Pot編集部・佐藤 直子)