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「結婚をしたくないわけではない」 事実婚を選んだ女性経営者が感じる、アイデンティティとキャリアを守る「選択的夫婦別姓」の必要性

公開日:  /  更新日:

著者:芳賀 宏

全国的に広がりつつある「パートナーシップ制度」

 現在、いくつかの自治体には、同性婚や異性間でも結婚できないカップルに対し、法律婚の人と同じような行政サービスを受けられる「パートナーシップ制度」があります。実は、宗像さんは事実婚に踏み切る前、沖縄県某市で申請して断られたことがあるといいます(沖縄県では、2025年3月28日から県としてパートナーシップ・ファミリーシップ制度を導入)。現在では多くの市町村が、こうした制度を整備する動きが広がりつつあります。

「(当時は)明確に断られてしまって。事実婚であることの理由を伝えても『今の段階では受け入れられない』と言われてしまい、正直ショックでした」と振り返ります。それまで宗像さん自身は、パートナーや家族と時間をかけて関係性を築き、理解を得てきた経験があったからこそ、制度がないことで関係性が認められない現実に強い疑問と悔しさを抱いたといいます。

「法律婚という枠組みからこぼれてしまう人は、同性カップルだけではありません。異性同士でも“名字を変えることで生きづらさを感じる人”や、“仕事上の理由で婚姻届を出せない人”が一定数います。だからこそもう少しフラットに考えてもらえたら良いのにと感じています」と話します。

 以前から議論されてきた選択的夫婦別姓は、人によって考え方もさまざまですが、昨年6月には一般社団法人経済団体連合会(経団連)が制度の実現を政府に提言。国会でも法案が提出され、採決には至らなかったものの、注目度は高まっています。

 経団連のニュースは沖縄県の地元紙にも掲載され、その際にパートナーのご両親が新聞の切り抜きを宗像さんたちに渡し、「こういうことが始まりそうだね」と伝えてくれたといいます。「もちろんニュースは知っていましたが、とてもうれしかったですね。受け入れてもらっているんだなって」と笑顔を見せます。

「納得するものが整っていれば法律婚もしたい」

 さまざまな困難に直面するなかで事実婚を選択した宗像さんですが、日本で受け継がれてきた同じ姓を名乗る文化や、婚姻という形を否定しているわけではないといいます。互いのアイデンティティを大切にするとの思いから、今の時点では事実婚の形がふさわしいとの判断です。

「今は事実婚の形ですけど、もちろん夫婦という気持ちでいます。私たちも、結婚をしたくないわけではないんです。彼が、あるいは私が病気で倒れてサインが必要になるかもしれないですし。(法案などの)内容やそのときの状況にもよりますが、納得するものが整っていれば法律婚もしたいし、子どもにもそういう姿を見せたいとは考えています」

 今後も、宗像さんのような選択をする人も増えてくるかもしれません。しかし、法律や慣習、文化の問題などクリアすべきことは少なくありません。

「自分たちにとって心地良い関係性を選ぶのは勇気がいりますが、誇るべきことだと思います。自分の価値観やライフスタイルに合った関係を築くことこそが自由であり、責任ある大人の選択。自分の人生、言葉、思いをどんどんデザインしていただければ。そんな女性の力を活かせる環境づくりを、私も目指していきたいですね」

 そう力強くエールを送る宗像さんは女性のエンパワーメントを目的とした、女性限定の体験型のツアーも行っています。宗像さんの決断が、自分らしい生き方を模索している人のヒントになるかもしれません。

(芳賀 宏)