仕事・人生
反復横跳びをしながら前進? 新たな可能性を探る京都の老舗・6代目 「ものづくり」で“遊び”と“挑戦”を続けるワケ
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変化の中でも保ちたい「ものづくりにしかない何か」

ブリキや銅、真鍮でできた開化堂の茶筒は、使う人の手や生活に触れながら、1つとして同じものはない色と風合いを持つようになります。6代で紡ぐ150年の歴史を150本の茶筒にたとえるなら、同じ色を持つものは1本たりともありません。戦火をくぐり抜けたり、機械化の波を乗り越えたり、それぞれの代が個性豊かな色を生み出してきました。
6代目もまた、独自の色を発する取り組みに励みます。海外に進出したり、大手電機メーカーとのコラボでスピーカーを作ったり、Kaikado Cafeをオープンしたり。最近では名古屋大学と一緒に「フタを開ける時の心地よさ」に関する実験にもチャレンジ。茶筒づくりを軸とした“遊び”や“挑戦”こそが、未来に進む力になると言います。
「明治から今まで並ぶ150本の茶筒の上で反復横跳びをしながら、前に進んでいるイメージ。パスタ缶やコーヒー缶を作ったり、スピーカーを作ったりすることが、前進するための運動エネルギーになると思うんです。祖父は第2次世界大戦中に隠れてこっそり茶筒を作り、戦後は薬屋を営みながら、なんとか手作りの茶筒を残そうとした。今は世界中で工芸に注目していただいていますが、そうではない時代が来るかもしれない。茶筒を作る本流は残しつつ、反復横跳びをしながら新たな可能性を探っていきたいですね」
受け継いだものを、そのまま次の代に渡せばいいというものでもありません。茶葉の鮮度を保つのは気密性の高い茶筒ですが、フタを開けやすいのは低いもの。開化堂の茶筒が持つ最大の魅力は「フタを開けた時の心地よさ」にあると考える八木さんは、「そのバランスを取るのが僕らの仕事」と続けます。
「今の人はペットボトルに慣れているから、祖父の時代とは茶筒のフタを持つ場所が違うんですよ。だから、茶筒の見た目は一緒でも、今の人が開けても気持ち良いと思える隙間具合に変えています。変わっていかなければいけない部分があって、でも変わってはいけない部分もある。そこをどうするかが僕らの仕事。茶筒を作り続けることと、開けた瞬間の心地良さは、一つのポイントになるかなと」
初代から守り抜く手作りの製法。使い手を思いやりながら加える変化。孫の代を想像しながら続ける挑戦……。八木さんの仕事の中心には常に、人と人とのつながり、心の温もりがあります。
「これから先、そこが大事になってくるのではないかと思って。求人募集をすると、ある程度は応募していただける。なぜかと考えると、ものづくりにしかない何かがあるんだろうと。僕らはそんなに稼がないけれど、心に貯まる何かがある。僕もミーティング続きの日と、茶筒づくりの日とでは、脳や心の疲れ方がまったく変わるんですよ。ものづくりは心に貯まる賃金がある。だから、やっていられるのかな」
時代に応じた変化をしながらも、本質は変わらない。50年先も100年先も、開化堂はそんな歩みを続けていきます。
(Hint-Pot編集部・佐藤 直子)